暗号資産ETFの世界動向:資金流入と拡大

▽ 要約

アジア・中東・米国で現物ETFに大型マネー流入。
AvenirはIBIT1477万株(3/31)、評価は約6.9億→約10億ドル。
ムバダラ等アブダビ勢はIBIT計約6.8億ドル規模を保有。
ETH現物ETFは3日で22〜23億ドル流入、BTC超え。

各地域の報道が断片的で全体像が掴みにくい――そんな疑問に応え、本稿は暗号資産ETF 世界動向を一次情報中心に俯瞰した。Avenirやムバダラの大型保有、ETH現物ETFの記録的流入、BTC ETFの世界的積み上がりを数値と日付で検証し、投資家が把握すべき構造変化を解説する。

アジア—Avenirの積み増しが象徴する機関投資の定着

AvenirはIBIT保有を公的開示に基づき積み上げたため、アジア勢の機関マネーが現物ETF経由で定着しつつある。
2025年3月末のSEC提出(13F)では、Avenir Tech LtdがブラックロックのIBITを14,766,760株保有、時価約6.91億ドルと記録された。IBITは2025年8月中旬に1口あたり約69.84ドルで推移しており、単純換算で同株数は約10億ドル規模に膨張する。Avenirの署名者はHuobi創業者の李林氏で、同社がデジタル資産分野で積極姿勢を強める状況がうかがえる。

Avenirの背景と戦略

李林氏のファミリーオフィス色が強いAvenirは、2024年以降クリプト分野の投資を拡張しており、現物ETFは保管・運用面のオペリスクを抑えつつ規制枠組みに沿ってエクスポージャーを得る手段として機能するため、機関投資家の導入障壁を下げる。

中東—アブダビの政府系ファンドが静かに積み上げ

ムバダラは13FでIBITの長期保有を開示したため、国家ファンドの資金がETF経由でビットコインに常設化しつつある。
ムバダラ投資会社は2025年3月末時点でIBITを8,726,972株保有(約4.09億ドル)。その後、6月末時点でも株数は不変で評価額は約5.34億ドルと報じられた。加えてAl Warda Investmentsは6月末時点でIBITを2,411,034株、約1.48億ドル相当を保有。アブダビ勢だけで約6.8億ドルに達する。

政策・市場基盤への波及

ソブリンの参入は規制整備と市場インフラの高度化を促すため、地域ハブ戦略(アブダビ/ADGM等)の推進力となる。一方で、ETF依存度の上昇は需給の偏りや価格変動拡大に注意を要する。

世界の保有規模—ETFがBTC供給の“厚み”を支配

世界の現物BTC ETFは供給の6%超を保有するまでに拡大したため、市場の価格弾力性に構造変化が生じている。
2025年7月末時点で現物BTC ETFの保有は約129万BTC(時価約1,500~1,600億ドル)。これは発行済み供給の6%超で、ブラックロックのIBIT単体はAUMが8月前後に800億ドル台に到達し、資産規模で金ETFの雄GLD(AUM約1,040億ドル)に迫る存在となった。

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マイニング供給とETFフロー

半減期後は一部の局面でETFの純買いが新規供給を上回る日も観測されたため、流通在庫の逼迫が価格上昇に寄与した可能性がある。フローの可視化はFarsideなどのデータで随時確認できる。

米国市場—ETH現物ETFの台頭と月間記録更新

7月は暗号資産ETF全体の月間流入が過去最高水準となったため、ETFが伝統資産に対抗する新たな受け皿として定着した。
米ETH現物ETFは2025年8月11日に単日で過去最大の10.2億ドル流入を記録し、8月11~13日の3営業日累計で約22~23億ドルに到達。同期間のBTC ETF流入(約3.3億ドル)を大幅に上回った。ETH現物ETFのAUMは8月12日時点で約257億ドルに達したとの推計もあり、セクター2本目の柱に育っている。7月は暗号資産ETF全体の月間純流入が128億ドルに達し、「VOOなどの巨大ETFを凌ぐ月間流入」との指摘も出た。

価格との相互作用

BTCは2025年8月14日に過去最高値を更新し一時12.4万ドル超、ETHも4,700ドル台に接近したため、ETFフローと価格の正の循環が強まっている。

制度面—退職年金からの潜在的流入

2025年8月7日の米大統領令は401(k)での代替資産アクセス拡大を指示したため、実務規則の整備次第で暗号資産ETFへの門戸が広がる可能性がある。

▽ FAQ

Q. Avenir社はどれだけIBITを保有している?
A. 2025年3月末にIBITを14,766,760株と開示(約6.9億ドル)。現在価格換算では約10億ドル規模に達する。

Q. アブダビ勢(ムバダラ等)のIBIT保有規模は?
A. ムバダラは8,726,972株(3/31、約4.09億ドル)、6/30も同数と報道。Al Wardaは241万株で約1.48億ドル。合計約6.8億ドル。

Q. BTC現物ETFは世界でどれだけ買われている?
A. 2025年7月末で約129万BTC、時価約1,500~1,600億ドル。供給の6%超をETFが保有する水準。

Q. ETH現物ETFの8月の資金動向は?
A. 8月11日に単日10.2億ドル、11~13日の3日間で約22~23億ドル流入し、BTCを上回る勢いとなった。

Q. 米401(k)と暗号資産ETFの関係は?
A. 8月7日の大統領令で代替資産アクセス拡大が示され、今後の規則次第で暗号資産ETF採用の余地が広がる。

■ ニュース解説

Avenirやムバダラの大型保有開示とETH現物ETFの記録的流入が相次いだため、暗号資産ETFはグローバルに「受け皿」として定着し、BTCは8月14日に12.4万ドル超の最高値を更新した。

投資家の視点:退職年金の制度面など追い風は強い一方、ETF偏重で需給がタイト化すればボラティリティが高まりやすい。フロー(Farside等)とAUM推移、基準価格乖離、費用率、カストディ体制を継続点検し、分散・リバランス規律を徹底した上で段階的なエクスポージャー管理を検討したい。

※本稿は投資助言ではありません。

 (参考:SEC