暗号資産の企業活用:優待・決済の最新潮流

▽ 要約

ギフト デジタルプラスがBTC等を優待化し試験購入を公表
ファッション GucciやOff-Whiteが暗号資産決済を継続
優待 gumi・イクヨ・SBIがBTC/XRP付与を実施
ポイント NewLoとPontaが学習・交換体験を展開

個人向けから法人向けまで、暗号資産の使途は「投資」一辺倒から「決済・優待・ポイント」へと広がったため、実装の選択肢と留意点を整理する価値がある。本稿は暗号資産の企業活用の最新事例を、デジタルギフト、ファッション、株主優待、ポイント施策、規制・税制の順に網羅し、導入時の判断材料を提供する。

デジタルギフト業界と暗号資産活用

暗号資産を既存ギフト基盤に組み込む動きが進むため、株主優待や販促の“配布手段”としての実装が現実解となった。
国内ではデジタルプラスが、子会社のデジタルフィンテックを通じて「デジタルギフト®」と連携し、株主優待等でビットコイン等の送付・受取を可能にする検討を表明、2025年7〜9月期(第4四半期)に100万円のBTCを試験購入する適時開示を出した。海外では米FoldがBlackhawk Network(BHN)と連携し、Bitcoin Gift Cardの主要オンライン小売チャネルでの流通を拡大、BitrefillはBTC等でAmazonやStarbucks等のデジタルギフト購入を恒常提供している。これにより、投資未経験層にも“ギフト経由の暗号資産接点”が生まれた。

海外の潮流:ギフト×暗号資産の量販化

ギフトカードの巨大流通網に暗号資産を載せる構図が進み、技術的ハードルが下がった。
Foldは2025年5月にBitcoin Gift Cardをローンチし、7月以降BHNの配下プラットフォーム(例:Giftcards.com)で販売面を拡大した。所在地や規約の違いを吸収しつつ“ウォレット不要の贈与体験”を提供する動線は、既存ギフト市場に親和的だ。

国内の実装:デジタルギフト基盤との直結

既存のギフト配布・精算フローに暗号資産を組み込むと、贈与・キャンペーン・優待のユースケースが一気に広がる。
デジタルプラスの試験購入は運用テストに留まるが、送受の仕組みをB2B/B2C双方に展開しやすい点が実務上の強みとなる。

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ファッション業界の暗号資産動向

高感度小売は“来店体験×決済の多様化”で暗号資産の採用を継続し、国内でも経営目的に暗号資産を位置づける企業が出てきた。
W TOKYO(TGC運営)は2025年8月、定款の事業目的に「暗号資産の売買・保有・投資・運用」を追加し投資参入を明確化した。一方、海外ではGucciが米国直営店の一部で複数通貨の受入れを継続、Off‑Whiteもパリ・ロンドン・ミラノ旗艦店でBTC/ETH等決済に対応、Philipp Pleinはロンドン店にNFTギャラリーを併設するなど、**“決済・販売・展示”**を横断する取り組みが見られる。

決済導入の意義:顧客層の接点拡張

暗号資産決済は売上ボリュームよりも“象徴性とPR波及”が効き、デジタル資産と親和性の高い顧客接点を強化できる。
対応通貨・決済プロバイダー・ボラティリティ管理(即時換価等)の設計が鍵で、ブランド毀損を避けつつ新規層を取り込む狙いがある。

株主優待・贈与における暗号資産活用例

優待は送付・受取の事務が重いが、暗号資産は少額・即時性・在庫不要の特性から相性が良い。
ゲームのgumiは2025年4月期の優待で総額1,600万円相当のBTCを抽選進呈、自動車用樹脂部品メーカーのイクヨ(7273)は2025年9月末基準で500株以上の株主1,130名に1〜10万円相当のBTCを抽選付与する制度を新設。SBIホールディングスはXRPを選択可能とする優待を継続し、小口株主向け特典も併設するなど、現物付与型の選択肢が広がった。

付与方式の設計:KYC・税務・残高管理

受取口座(取引所口座やカストディ)のガイド、配布レートの基準日時、源泉徴収・雑所得の扱い、残高確認の導線整備が運用の肝となる。
抽選型は広報効果とコストコントロールの両立に有効で、API連携により配布オペレーションの標準化が進む。

消費者向けマーケティング戦略と暗号資産

“学びながら試す”導線づくりが拡大し、ポイント経済圏と暗号資産が近づいた。
NewLoは2025年8月、Web3キャンペーン基盤にポイント→ETH交換機能を実装し、ブロックチェーン上のポイント管理と交換を統合。Pontaは2025年6月に疑似トレード体験「Pontaビットコin牧場」を公開し、Pontaポイントで価格変動を学びつつ成果をポイントへ戻せる仕組みを提供した。

施策の意義:低リスク体験とロイヤルティ強化

疑似運用や限定特典は、暗号資産の体験コストを下げロイヤルティ向上に寄与する。
一方で、換金性・会計処理・景表法対応の整理が不可欠となるため、利用規約とKPI設計を併走させる必要がある。

業界別の暗号資産保有・規制動向

規制整備が進む一方、リスク管理水準の差で業界ごとの温度差は残る。
小売・流通では為替・インフレ耐性や販促活用の観点から採用が先行し、マックハウスは2023年に約17億円規模のBTC取得方針やマイニング参入を公表。一方、金融業はAML/CFTや証券規制との整合を最優先し、段階的な採用に留まる。日本は2020年改正資金決済法で交換業登録を厳格化、2023年施行の改正でステーブルコイン類型(電子決済手段)を整備、企業会計・税制も期末評価課税の見直しが進展。EUはMiCA適用で発行・流通の規律を明確化した。

実務ポイント:会計・税務・ライセンス

企業保有は評価方法と注記、優待は源泉の要否、仲介はライセンスの該当性の精査が必須。
ガバナンス体制(ポリシー・鍵管理・内部統制)を前提に、段階導入で実験→標準運用へ移行するのが現実的だ。

▽ FAQ

Q. 2025年のギフト分野で注目の企業は?
A. デジタルプラスが優待でBTC等を導入し、7–9月期に100万円のBTC試験購入を公表した。

Q. ファッションでの代表的な決済導入は?
A. Gucciが米店舗で暗号資産を受入れ、Off‑WhiteやPhilipp Pleinも決済やNFT展示を実装した。

Q. 株主優待で暗号資産を付与する企業は?
A. gumiが総額1600万円のBTCを抽選進呈、イクヨは500株以上へBTC抽選、SBIはXRP選択可。

Q. ポイントと暗号資産の連携の最新は?
A. NewLoがポイント→ETH交換機能を実装、Pontaは疑似運用の「ビットコin牧場」を開始。

Q. 規制・税制の押さえどころは?
A. 日本は改正資金決済法と電子決済手段整備、期末評価課税見直しが進み、EUはMiCA適用が進展。

■ ニュース解説

企業の採用がギフト・優待・決済・ポイントへ広がったため、規制整備と会計・税務の整理が導入の後押しとなる一方で、AMLや価格変動管理の要件が高くなる。
投資家の視点:導入は段階的なPoCから開始し、鍵管理・価格変動の即時換価方針・優待/贈与の税務FAQ・KPIを先に整えるのが合理的。規制の変化(日本の税制見直し、MiCA適用範囲)を四半期ごとにレビューし、会計方針と内部統制を更新する。

※本稿は投資助言ではありません。

(参考:デジタルプラス,W TOKYO,Gucci,gumi,イクヨ(7273),SBIホールディングス,Fold