▽ 要約
アマゾン提案:NCPPRが資産の一部をBTC保有対象とする評価を要請。
メタプラネット:2026年末10万BTCへ、555百万株で大型調達。
セイラー買い:8/31「安売り中」投稿、先週は3,081BTCを追加。
需給逼迫:企業の吸収が発行の約4倍、ETF流入も継続。
企業によるビットコイン取得が量・質ともに拡大し、短期的なクジラの売り圧力を挟みつつも構造的な需給引き締まりが進むため、2025年9月初旬の市場は「押し目を作りながらの企業主導相場」が続くとみられる。特に企業のビットコイン保有は供給面での重要ファクターとなり、投資家は資金フローと財務戦略の転換を注視すべきだ。
アマゾンへのビットコイン財務戦略提案
アクティビスト系株主の働きかけが顕在化したため、巨大テックの財務資産配分にビットコインを含める是非が制度論として浮上した。
アマゾンでは、保守系シンクタンクNCPPRが「資産の一部(例示で約5%)をBTC保有対象に含める評価」を求める株主提案を提出した。現金・債券中心の資産構成はインフレ局面で価値毀損リスクがあるとし、長期的な株主価値最大化の観点から分散を主張している。米SEC向け書簡には、マイクロストラテジー(現ストラテジー)の株価・運用事例など比較材料が列挙され、企業財務におけるBTC組入れの議論が「評価義務」の形で前進したことが読み取れる。
提案の射程と波及
提案は義務的な即時保有ではなく評価実施を求めたため、まずは取締役会の分析・開示プロセスが問われる一方で、同種提案の他社波及が見込まれる。
評価段階のハードルは低いが、実保有に進むにはボラティリティ管理・会計方針・ガバナンスの整備が不可欠となる。もっとも現金価値の維持が難しい環境では、BTCを「準・準備資産」とみなす発想が大型企業にも浸透し得る。
メタプラネットの10万BTC目標と「555 Million Plan」
資本市場のレバレッジを使ったアグレッシブな拡大策が打ち出されたため、アジア発の“企業トレジャリー”モデルが現実味を帯びてきた。
東証上場のメタプラネットは、従来の21,000BTC目標を2026年末100,000BTCへ上方修正し、さらに2027年末210,000BTC(発行上限の約1%)を掲げた。達成のため最大555百万株の新株予約権(ワラント)等による約54億ドル規模の資金調達枠を公表し、調達資金で機動的に買い増す設計だ。株価は調整しているが、同社は「BTCを財務の要」に据える方針を明確にしている。
実行上の論点(希薄化・執行能力・市場影響)
大規模ワラントは希薄化リスクを伴うため、段階的行使やオプション収益の活用で自己資本コストを抑える運用巧拙が重要となる。
一方で、同社の買付は流動供給の取り崩し要因となり得るため、上場企業によるBTC保有の規模・頻度が価格弹力性に与える影響は無視できない。
セイラー発言とストラテジーの継続買い
財務戦略としての定期買付が定着したため、短期下落局面でも需給の下支えが働きやすい。
8月31日(現地)、マイケル・セイラー氏は「Bitcoin is still on sale」と投稿。直前週(8/18〜24)にはストラテジー(旧マイクロストラテジー)が3,081BTCを平均$115,829で追加取得し、総保有は632,457BTCに達した。株式発行等の資本調達を原資とした継続買いは、企業トレジャリー群の“定常的な吸収”を象徴する。
投資家が読むべきサイン
セイラー氏は購入前日に示唆的な投稿を重ねる傾向があるため、短期需給のヒントとなる。
もっとも同社株の反応はBTC連動性が高く、単独の買付公表が常に株価ドライバーになるとは限らない点には留意が必要だ。
24,000BTC売却クジラと短期ボラティリティ
流動性の薄い週末に大量成行が重なったため、瞬間的な価格ギャップと清算連鎖が発生した。
8月下旬、約24,000BTCの売却が確認され、BTCは数十分で約$4,000下落した。同主体はその後3,000BTCを取引所へ移動し、追加売り懸念が意識される局面もあった。こうした単発イベントは短期ボラを高めるが、足もとの需給は企業・ETFなど機関側の買いが下支えしやすい。
教訓—週末流動性と発注設計
週末・薄商いの時間帯はスリッページが拡大しやすいため、大口は分割・OTC・リミット活用が望ましい。
個人投資家も強制ロスカット域の余裕・証拠金管理を徹底し、イベント時の過度なレバレッジを避けたい。
企業吸収量が新規供給の約4倍という構図
発行量がハーフィングで細る一方、企業・ETFの純流入が増えたため、流動供給の締まりが進行している。
Riverのフロー分析(8/25時点)では、企業が約1,755BTC/日を吸収、日次発行約450BTCの約4倍に達する。さらにETF等の純流入は約1,430BTC/日で、個人から機関ウォレットへのネット移動(約-3,196BTC/日)も示唆された。構造的な“機関主導の取り崩し”が価格弾力性を変えつつある。
投資判断への含意
定常フローが発行を上回る状態が続けば、下押し要因がイベント的売りに限定され、押し目の寿命は相対的に短くなりやすい。
一方で、フローは推計値で不確実性もあるため、過信せず複数データでクロスチェックする姿勢が必要だ。
グローバル流動性とサイクルの見通し
各国の金融環境が2025〜26年にかけて緩和方向に転じる公算があるため、BTCサイクルの延命余地が残る。
流動性指標の分析では、世界的な景気減速・債務再編需要を背景に、主要中銀が再び流動性を供給する局面が想定される。歴史的にもBTCは流動性拡大期に強気相場を形成しており、2026年にかけての上昇余地を指摘する論考が増えている。ただし、巨額のリファイナンス・ウォールと政策運営次第で波乱もあり得る。
投資家の実務対応
流動性が上向く局面では、現物・低レバレッジを軸に“押し目待ち過ぎ”リスクを抑える一方、イベント急落時の段階的買付余力を温存したい。
また、企業のビットコイン保有動向(新規上場企業の採用やワラント動向)とETFフローを、週次で点検するルーティンが有効だ。
▽ FAQ
Q. アマゾンの株主提案の具体的内容は?
A. NCPPRが2025-01-20のSEC書簡で、資産の「約5%」を例示しつつBTC保有の評価実施を求めました(Romine提案との重複主張も記載)。
Q. メタプラネットの資金計画は?
A. 2025-06-06に「555 Million Plan」を公表し、555百万株ワラント等で最大約54億ドルを調達し、2026年末10万BTCを狙います。
Q. ストラテジーの最新の購入規模は?
A. 2025-08-24終了週に3,081BTCを平均$115,829で取得、累計632,457BTCです。8/31の「安売り中」投稿も話題になりました。
Q. 企業の吸収量が発行量を上回る根拠は?
A. Riverの8/25フロー図で企業1,755BTC/日、発行450BTC/日、ETF1,430BTC/日の純流入が示され、需給逼迫が示唆されました。
■ ニュース解説
企業・ETFの買い越しが発行量を上回るため、需給は構造的にタイト化しつつある一方で、単発の大口売りで短期ボラが生じる。
事実・背景・影響を整理すると、①事実:NCPPRの提案、メタプラネットの大型調達、ストラテジーの継続買い、24,000BTC売り、Riverのフロー指標、②背景:インフレ・地政学・会計/資本政策の進化、③影響:流動供給の縮小と“押し目は短命”という値動きの変化が示唆される。
投資家の視点:現物中心・低レバでフロー優位の押し目を拾い、イベント急落時のみ段階的に厚くする一方、クジラ売りや週末流動性の薄さに備え証拠金と発注設計を厳格化したい。ETFフローと企業ディスクロージャーを週次で点検する運用が実務的だ。
※本稿は投資助言ではありません。
(参考:U.S. SEC,National Center for Public Policy Research,Metaplanet)