▽ 要約
買収:仏Aploを買収し欧州で機関投資家基盤と技術を獲得
企業・顧客:AMF登録DASPでMiCA申請中、顧客は60社超
制度動向:MiCA発効と米ETF承認で機関導入が加速
日本動向:Coincheck Prime開始やUSDC国内上場が追い風
欧州で何が変わり、なぜ今なのか――という読者の疑問に対し、本稿はコインチェック Aplo 買収の戦略的意義を結論先出しで示す。Aploの技術・顧客・規制対応を取り込み、Coincheckは欧州EEAでの機関投資家ビジネスを一気に展開できるため、国内「Coincheck Prime」との両輪でB2B2Cも視野に入る。投資家・事業会社にとって、制度整備が進む日欧を跨ぐ実務的な影響を短時間で把握できるのように解説する。
Aploの概要と強み
Aploは2019年創業の仏パリ本社のプライムブローカーで、AMF登録DASPのため高い規制遵守と信頼性を備え、アルゴ執行と多市場流動性に強みを持つ。
Aploは機関投資家向けにアルゴリズム執行、RFQ、複数市場の流動性接続、OTCなどを提供し、価格発見とコスト効率を重視する設計だ。AMFのDASP登録(登録番号E2020-005)に加えMiCA下のフルライセンス申請プロセスを進めており、欧州域内パスポートでの横展開を想定する。顧客はヘッジファンド、資産運用会社、銀行、大手事業法人など60社超。2025年にはHedgeweekのGlobal Digital Assets AwardsでEMEA最優秀プライムブローカーに選出され、欧州での実績を裏付けた。
規制対応(AMF DASP/MiCA)
AMFのDASP登録を土台にAML/KYC・カストディ要件を満たすため、MiCA適用下でも移行の摩擦が小さく、パスポートでEU各国にサービスを広げやすい。
フランスはPSAN(DASP)で早期に枠組みを整備しており、MiCA完全適用後はCASP認可への移行が焦点となる。Aploはブローカー/カストディ領域を軸に、監督当局との接点とドキュメント整備が進んでいる。
プロダクトと顧客基盤
高度な執行エンジンと複数流動性プールの活用で大口・複雑注文のVWAP改善を狙えるため、機関投資家のニーズに合致する。
顧客は欧州のヘッジファンドや銀行等に広がり、取引の自動化・透明性・執行レポートで運用現場の要件(説明責任・コスト管理)に対応している。
買収の目的と背景(欧州戦略と国内展望)
MiCAでルールが明確化した欧州で、既存DASPと顧客網を取り込むほうが新規参入より速く確実なため、Aplo買収に踏み切った。
Coincheck Groupは2024年12月にNASDAQ上場を完了し、調達基盤と国際的信用力を整えたうえでの初の本格海外M&Aとなる。欧州は機関投資家層が厚く、MiCAのパスポートで域内展開が可能なため、リテールに強いCoincheckが機関分野を補完する最短ルートだ。一方、日本では2025年3月に法人・機関向け「Coincheck Prime」を開始し、高額OTC、カストディ、期末評価損益調整(アセットロック)等の提供を始めており、国内でも機関需要の取り込み体制が整いつつある。
国内制度と需要の変化
USDCの国内初上場や信託銀行のカストディ解禁、個人課税20%分離課税の検討など制度整備が進むため、企業・機関の参入障壁が下がっている。
2025年3月にSBI VCトレードがUSDCを国内初取り扱い、2022年の信託銀行カストディ解禁もインフラ整備を後押しした。与党税調では暗号資産の金融所得並み20%課税が提案され、制度面の不確実性は縮小傾向にある。
買収でコインチェックが得るもの(技術・顧客・国際展開)
Aploの執行基盤と欧州ライセンス、60社超の顧客、人材を包括的に取り込めるため、B2B2Cを含む国際展開が加速する。
技術面ではクロスマージンや延長決済等の資本効率化機能や、新たな機関向け商品拡充、グローバル市場に適合した取引インフラ刷新が想定される。規制面ではAMF登録とMiCA申請プロセスの知見が欧州事業の速度を上げ、将来の多地域対応にも横展開可能。顧客面ではAploの機関ネットワークがグループ資産となり、創業者4名を含む全従業員の継続参画で人材の希少性も獲得する。併せて、AploがCoincheckの一部アルトコインに流動性を提供する検討が示され、日本市場の価格競争力向上も期待される。
スケジュールと体制
買収は2025年10月完了見込みで、Aploの全従業員が継続参画するため、統合初期から運用・対当局対応の継続性が担保される。
持株会社CNCKのもとで、欧州(Aplo)と日本(Coincheck)のプロダクト・流動性・コンプライアンスの統合ロードマップが描きやすい。
機関投資家の導入動向(欧州・米国・日本)
MiCA施行で欧州の制度不確実性が低下したため、CASP認可やETP上場が進み、機関の導入環境は最も整ってきた。
欧州ではMiCAが段階適用され、2025年にはCASP認可が各国で発給され始めた。ビットコインETP市場も拡大し、2025年3月にはBlackRockが欧州で現物型ETPを投入するなど、受け皿が広がる。米国では2024年に現物BTC ETFが一括承認され、2025年にはAUM規模が1000億ドル級に到達、IBIT単体でも800億ドル超とされる。13Fからは州年金を含む機関の採用例も確認される。日本ではLaser Digital(野村HD系)の2024年調査で「今後3年で投資意向54%」「分散機会62%」が示され、2025年はUSDC上場やリテール・機関両面のサービス拡充が追い風となる。
投資テーマの地政学と規制
米欧の規制受容が進む一方で、各国当局の運用差は残るため、パスポート対応と多法域コンプライアンスが勝敗を分ける。
MiCAは透明性・消費者保護・資本要件を明確化し、EU内の統一市場を形成する。その反面、各国当局による移行規定や監督の濃淡には差があり、現地チームと当局対応の蓄積が不可欠だ。
本件が日仏・業界全体へ与える影響
日本企業が欧州DASPを取得したことで、日欧での相互上場・流動性連携や、銀行向けB2B2Cモデルの普及が進む可能性が高い。
日本側では欧州標準の執行・コンプラ水準が持ち込まれ、国内サービスの高度化と機関向け水準の底上げが期待される。フランス側では、Aploが日本上場企業グループの資本と戦略を得て採用・開発投資を加速、パリのデジタル資産ハブ化にも追い風となる。グローバルには、取引所・ブローカーの補完的M&Aが進み、伝統金融と暗号資産の接続点(銀行のホワイトラベル提供など)が拡大しうる。
▽ FAQ
Q. Aploはどんな会社で、何が強み?
A. 2019年創業の仏Aplo SAS。AMF登録のDASPで、アルゴ執行と多市場流動性、OTCに強み。60社超の機関顧客を持つ。
Q. 買収のクロージング時期は?対価や構成は?
A. 2025年10月の完了を見込む。詳細な対価条件は非開示だが、Aplo創業者4名と全従業員が継続参画予定。
Q. Coincheckにとっての主要メリットは?
A. 高度な執行技術、欧州DASP/将来MiCAライセンス、60社超の機関顧客、人材の獲得。国際展開の加速に資する。
Q. 国内機関投資マネーの動きは?
A. 2025年3月にUSDCが国内初上場、同月にCoincheck Prime開始。税制20%分離課税の検討も進む。
■ ニュース解説
買収合意は欧州MiCA下での事業加速を狙った動きであり、AMF登録DASPのAploを傘下にすることで規制・顧客・技術を同時に獲得できる一方で、各法域の移行規定や統合実装の難度は残る。
投資家の視点:機関導入は米ETF・欧MiCAで構造化が進むため、流動性・コスト・規制準拠で優位な事業者がシェアを伸ばす公算が大きい。企業はカストディと会計・税務の運用体制を先に固め、ベンダー選定で執行品質と当局対応の実績を重視したい。
※本稿は投資助言ではありません。
(参考:Coincheck Group,Monex Group,AMF,Aplo公式サイト)