CLARITY法の上院修正で揺れる米暗号資産規制

▽ 要約

争点:ステーブルコイン利回りの線引き
Coinbaseが草案支持を撤回、上院審議が延期
銀行は預金流出リスク、暗号側は競争阻害を懸念
妥協設計次第で2026年の成立可否が決まる

院の市場構造法案は、ステーブルコイン利回り規制を巡り銀行と暗号業界の利害が衝突し、超党派合意の再構築が必要になっている。

unnamed 13

CLARITY法は米国の暗号資産を「証券か商品か」整理する主力法案だが、上院草案でステーブルコイン利回り規制が急浮上した。本稿では、Coinbaseの支持撤回が示した論点と、政治が探る落とし所を投資家向けに解説します。

ステーブルコイン利回りが争点化した理由

利回りの扱いは定義設計の問題であり、法案全体の成否を左右している。

2025-07-18に成立したGENIUS法は、発行体の準備資産要件など枠組みを整える一方、保有者へ利回りを付与する行為を抑制する方向性を採った。今回の協議は、その“抑制の射程”を発行体以外へ拡張するかが焦点になっている。

銀行側の主張は、利回りが付くステーブルコインが拡大すると預金が流出し、貸出原資が細るという金融安定の論理だ。BPIは米財務省の推計として「利回りが許容されると最大$6.6Tの預金流出が起こり得る」と指摘し、発行体以外を経由する“抜け穴”も含めた禁止を求めている。

暗号業界側は、利回りの全面禁止は銀行の競争圧力だけを弱め、消費者利益と米国の競争力を落とすという立場を取る。業界団体などは2025-12-18付の書簡で、GENIUS法は発行体を規律しつつ第三者インセンティブ余地を残した妥協であり、追加禁止はルールの予見可能性を損なうと主張した。

本質的な争点は、(a)「保有しているだけで付く利回り」と、(b)「決済・送金・ロイヤルティ等の利用促進インセンティブ」を同一視するかどうかにある。上院草案は(a)を抑えつつ(b)を一部許容する設計を試みるが、境界が曖昧だと“迂回利回り”を招き、明確すぎるとビジネスを過度に縛る。

Coinbaseの支持撤回と上院審議延期

業界最大手の離脱は、法案の中身だけでなく業界の足並みを揺らし、政治日程にも直撃した。

2026-01-13に上院で草案が公表され、上院銀行委員会で2026-01-15にマークアップが予定されたが、直前に延期が発表された。法案の実務調整が終盤に差しかかっていたタイミングだけに、延期は交渉の再設計を意味する。

延期の引き金になったのが、2026-01-14のCoinbase CEOブライアン・アームストロング氏による反対表明だ。上院銀行委のティム・スコット委員長は「全員がテーブルに残って誠実に協議している」と述べ、修正協議の継続を示唆した。

アームストロング氏は、トークン化株式の扱い、DeFiへの規制負荷、CFTCの権限設計、そしてステーブルコイン報酬の制限を問題視した。とくに報酬条項は、保有のみで利息が生じる設計を抑えつつ、特定行為に紐づくインセンティブを認める線引きが検討されている。

政治の力学と成立条件

成立の鍵は、投資家保護と競争力を同時に満たし、上院の60票の壁を越える合意を組めるかだ。

下院では2025-07-17に法案が294-134で可決され、民主党議員78人が賛成に回ったことで、少なくとも下院版は超党派の体裁を整えた。上院で同水準の合意を作るには、争点を増やしすぎないことが重要になる。

一方で上院は、銀行委と農業委がそれぞれ所管論点を持ち、条文が肥大化しやすい構造がある。AMLやDeFi要件は投資家保護の観点で強化圧力がかかるが、過度だと国内の開発・起業環境を損なうとの反発も強い。

さらに中間選挙(2026年)が近づくほど、交渉は政策設計だけでなく政治的リスク管理の色彩が濃くなる。倫理条項など論点が増えるほど合意形成コストは上がるため、委員会段階で争点を限定できるかが焦点になる。

ルール設計の核心:SECとCFTCの線引き

市場構造法案の本丸は、トークンの性質に応じて監督当局と義務を明確化する点にある。

上院草案は、トークンが「証券・商品・その他」のどれに該当するかを定義し、スポット市場監督をCFTCへ寄せる枠組みを志向するとされる。分類が固まれば、取引所の登録や開示の“入口”が見えるため、企業側の計画可能性は上がる。

一方で開示・登録の要求水準を引き上げれば、実務上はSECの関与が強まり、企業は解釈の揺れに備えたコストを負担し続ける。そのため線引きは、投資家保護の強度だけでなく、登録ルートの実務負担(開示頻度、監査、責任主体)までセットで評価すべきだ。

関連:X APIのInfoFi禁止、暗号資産PRの転機

今後の注目点:落とし所とタイムライン

焦点は利回り定義と、DeFi・AMLをどこまで行為ベースで規律するかに集約される。

短期では、(a)上院銀行委のマークアップ再設定、(b)上院農業委の別案提示、(c)両党協議の修正が並行し、条文は流動的に動く。投資家は「日程が戻るか」と同時に「戻ったときの条文が何か」を見る必要がある。

利回りは、銀行の預金流出懸念に配慮しつつ、決済や送金のインセンティブまで一律に潰さない「用途限定」の妥協が現実的だ。ただし許容範囲を広げすぎれば“利回りの迂回”として銀行側が反発し、狭めすぎれば暗号側が事業価値を失うため、均衡点の探索が必要になる。

短期的には立法プロセスの遅れ自体が不確実性となり、関連企業の株価や主要トークンは材料に振れやすい。反対に、論点が整理されて合意が近づけば、規制プレミアムの低下としてポジティブに評価される可能性もある。

▽ FAQ

Q. CLARITY法の上院審議はいつ動く?
A. 2026-01-15の延期後、ティム・スコット委員長の上院銀行委員会で再設定し、2026年春までに本会議へ進めるかが焦点です。

Q. ステーブルコイン利回りは何が禁止される?
A. GENIUS法(2025-07-18)で発行体の利回り支払いが禁止され、取引所など第三者リワードをどう線引きするかが争点です。

Q. Coinbaseが問題視したポイントは?
A. アームストロング氏は2026-01-14に、DeFi負担・トークン化株式・CFTC権限・ステーブルコイン報酬制限の4点を問題視しました。

Q. 投資家は何を見ればよい?
A. 投資家はSEC/CFTCの線引き、利回り定義の最終条文、移行期間(例:12〜24カ月)など2026年中の実装条件を確認したい。

■ ニュース解説

今回の協議は、規制明確化を急ぐ政治と、収益モデルを守りたい銀行・暗号業界の綱引きが同時に噴出した局面だ。
利回り規制は金融安定と競争政策の両方に触れるため、賛否より「何を利回りと定義するか」が実務と市場評価を左右する。
投資家の視点:審議日程・修正条文・当局の共同ルール(開示/登録)の3点を時系列で追い、規制コストと収益源の再配分を点検したい。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:United States Senate Committee on Banking,The White House,Congress.gov