【要約】
CIRCLE社 IPOの概要
6月5日にナスダックへ上場予定。公募価格や調達額の上方修正が相次ぎ、機関投資家の関心も高まる。
USDCの立ち位置
世界第2位のステーブルコイン。合規性と透明性を武器に、Coinbaseや大手金融機関との提携を進める。
投資家の注目点
ベライド(BlackRock)をはじめとする伝統的ウォール街の巨頭が出資に名乗り。ARKインベストも約1.5億ドルの取得を検討。
今後の課題
高金利下で利益が膨らむ一方、Coinbaseとの利益分配や規制環境の変化が収益を左右する可能性。
CIRCLE社 IPOに至る背景と老株主の動き
Circle社は、2013年に創業されたフィンテック企業で、米ドル連動型ステーブルコイン「USDコイン(USDC)」の発行元として広く知られています。長らくSPAC(特別買収目的会社)での上場を模索してきましたが、2022年末には規制の審査や市場低迷の影響で計画が白紙撤回されました。しかし暗号資産市場が持ち直し、さらに米国でステーブルコインの規制整備が進む機運が高まる中、ついにCircle社 IPOが再始動したのです。
当初は2,400万株、1株24~26ドルの公募を計画していましたが、機関投資家の需要増を受けて3,200万株(うち旧株主売出し分は800万株)へと拡大。価格帯も27~28ドルに上方修正し、最大8.96億ドルを調達する見込みです。投資家の一部は2013年からの古参株主であり、今回のIPOで数倍から数十倍のリターンを得る可能性があるといわれています。
USDCエコシステムと収益モデルの特徴
Circle社の収益は、USDCの準備金から生まれる利息収入が大半を占めます。現在、米国債や現金同等物に裏付けられたUSDCの市価総額は約600億ドル超。合規性と透明性を強みに、Coinbaseをはじめ複数の主要取引所・企業と連携し、DeFiや国際送金、決済など多用途への展開を進めています。
ただしその利益には、Coinbaseへの収益分配が大きく影響します。USDCの運用益の最大50%をCoinbaseとシェアする契約があるため、USDC市場が拡大するほどCircle社の収益は増えますが、同時に分配コストも大きくなる構造です。
機関投資家の参入と上場後の展望
今回のCircle社 IPOでは、ARKインベストが最大1.5億ドル相当を、ベライド(BlackRock)が最大10%の株式を取得する計画を示しています。さらにジョン・モルガン(J.P.モルガン)やゴールドマン・サックスなどの大手金融機関も引受団に名を連ね、ウォール街から強い支持を受けています。Circle社は上場による調達資金を活用し、国際規制への対応や決済ネットワーク構築などを一段と加速させる見通しです。
ステーブルコイン規制とCircle社の優位性
米国ではステーブルコインの法整備が進行中で、明確なルールづくりが最終段階を迎えています。Circle社は早期から各州の送金業ライセンスを取得し、NY州金融当局(NYDFS)のガイドラインも遵守してUSDCを運営。透明性の高い会計監査体制に加え、ベライドとの提携を通じて準備金管理を安定化させています。こうした合規性は、今後ステーブルコイン市場の再編が起きた際に大きな強みとなるでしょう。
競合との比較—USDTとの攻防
ステーブルコイン市場では、テザー社のUSDTが依然として最大シェアを握ります。USDTの発行残高は1,000億ドルを大きく上回り、高金利局面の運用益も莫大とされています。一方、Circle社は米国での信頼獲得や情報開示の徹底を武器に、既存の金融機関や規制当局からの評価を高めています。市場規模で先行するUSDTに対し、Circle社のIPOは「上場企業」としてさらに信用力を高め、合規かつ多チェーン対応のUSDCで差別化を図る戦略です。
ニュースの解説
Circle社のIPOは、暗号資産業界のみならず伝統的金融界からも注目を浴びる画期的な出来事です。ステーブルコインが主流金融へ溶け込み始める象徴ともいえるこの上場には、「高金利による利息収入」「大手金融機関の参入」「法整備の進展」といった追い風が重なっています。一方で、金利環境の変化や競合との分配コスト、各国規制への柔軟な対応が今後の成長を左右する要素となるでしょう。特に米国の立法動向やCoinbaseとの収益シェアが収益構造を大きく左右するため、投資家はこれらを注視する必要があります。上場初日の株価動向や機関投資家の動き次第で、ステーブルコイン市場全体がさらなる転換期を迎える可能性も高いといえます。