ビットコイン再破10万ドルは米州政府の備蓄が後押し?立法動向とリスクを徹底解説

【要約】
・ビットコイン再破10万ドルの話題が市場をにぎわせる背景には、アメリカ各州によるビットコインの備蓄計画がある
・米ニューハンプシャー州は財政資金の5%までをビットコインに換える立法を、アリゾナ州は放置された暗号資産を「州資産」として取り込む方針を採択
・テキサスなど他州も同様の法案を準備中だが、実際の買い入れ規模はBTC市場全体からみるとごくわずか
・ただし「政府レベルのホールド(HODL)」というストーリーにより、短期的に市場の注目と価格上昇を引き寄せやすい
・一方で州ごとに風土や規制が異なり、リスク管理や資金投入の可否もまちまち。政治的パフォーマンスの側面も否めない

ビットコイン再破10万ドルに見るアメリカ州政府の動き

近年、ビットコイン(以下「BTC」)の価格動向は金融機関だけでなく政府レベルでも注目を集めています。特に「ビットコイン再破10万ドル」という見出しを後押ししているのではないかと取り沙汰されているのが、アメリカ各州政府によるBTC備蓄の動きです。トランプ大統領が当選後に「国家戦略備蓄へのBTC採用」を示唆していたことは記憶に新しいですが、連邦レベルでの具体的政策はなかなか進展していません。しかしその一方、州レベルでは短期間のうちに複数の法案が通過し、実際に州予算の一部をBTCに振り向けようとする事例も出始めています。ここでは米ニューハンプシャー州とアリゾナ州を中心に、各州のアプローチを比較しながらリスクと今後の影響を考察します。

米ニューハンプシャー州(New Hampshire)の事例:5%上限と単一資産への集中

米ニューハンプシャー州はHB 302を可決・署名し、州財務部が一般基金や雨天基金の最大5%までをビットコインに換えることを正式に認めました。実質的には「1年間の時価総額が5,000億ドルを超えるデジタル資産」が対象で、現状ではビットコインのみが該当するとみられています。

  • 投資上限5%と安全弁
    持ち分の拡大や市場価値の下落があっても、5%を超えない範囲でリバランスする仕組みを想定。ただし、もし州基金の総額が減少した場合に、どのタイミングでどのようにBTCを売却するかは明確に定められておらず、会計処理の灰色部分が指摘されています。
  • 三つの保管モデル
    1)州政府自体でマルチシグウォレットを管理する、2)SPDIなどの持牌銀行に委託する、3)SEC認可のBTC ETFを購入する、という三つの手段を選択可能です。自前でコールドウォレットを管理すれば透明性は高まる一方、管理コストやセキュリティリスクが増大します。ETFを使えば管理は容易ですが、実際にはビットコインそのものではなくETFの証書を持つ形になるため、ブロックチェーンならではの追跡可能性を活かしにくい面があります。
  • 運用制限
    レバレッジや借入、担保などは一切禁止されており、純粋な現物保有に限られます。これはリスク縮小を図る一方、ステーキング(PoSチェーン)などの追加収益を得るチャンスを放棄したともいえます。

アリゾナ州(Arizona)の戦略:未使用資産からの拡充とStaking

一方、アリゾナ州は「自前の税金を一切使わない」ことを強く打ち出しています。HB 2749によって、3年間放置された暗号資産や私鍵が不明な口座を「無主資産」とみなし、州の「ビットコインおよびデジタル資産準備基金」に組み入れるという大胆な仕組みを確立しました。

  • 不明資産の“再活用”
    BTCだけでなく、日々の出来高が小さいアルトコインやミームコインであっても、要件を満たせば基金に編入されます。州としては多様な銘柄を抱えることになり、市場急騰時は恩恵を得られますが、逆に不人気銘柄の大幅下落リスクを被る可能性も高まります。
  • Stakingによる収益化
    この基金内の暗号資産は、州が認可するカストディ業者を通じてステーキングが可能です。元本が無償で転がり込む分、リスク許容度を高めやすい反面、ネットワークの不備やノード運用ミスによるスラッシング(罰則)も公費負担となる恐れがあります。
  • BTC部分の事実上のロック
    BTCは「立法による別途の許可」がなければ売却できないため、実質的に長期保有が義務化されています。アルトコインに限っては最大10%までを現金化し、州の一般財源に回せる仕組みですが、BTCはそのまま「HODL」される方向です。

他州の最新動向:テキサス、オクラホマ、イリノイなど

米国ではほかにも複数の州がビットコイン備蓄に関する立法案を検討中または審議中です。

  • テキサス州
    上院で「テキサス州戦略的BTC備蓄」法案が可決済みで、下院での本審議待ち。公的資金2,100万ドルを配分する計画が含まれており、もし成立すれば最大級の「本格買い」事例として注目を集めています。
  • オクラホマ州
    下院を通過したものの上院税務委員会で否決され、今期は実質廃案に。州年金基金にBTCを組み込みたい議員と、公的基金の高いボラティリティを問題視する反対派の溝が埋まりませんでした。
  • イリノイ州・ミズーリ州
    イリノイ州HB 1844は「州への寄付分だけをBTCで保有」という控えめな案で、買い圧力にはほぼなりません。ミズーリ州も自主管理を認める枠組みを検討していましたが、進展がなく停滞しています。
  • フロリダ州
    過度な価格変動を危惧する財務関係者の意向から法案自体が取り下げられ、当面は暗号資産への積極関与を回避する見通しです。

市場インパクト:買い圧力とリスク要因

実際に各州がビットコインを購入しても、その規模はBTC市場全体の流動性からするとごくわずかです。たとえば米ニューハンプシャー州の財政規模は年間予算で70億ドル程度。仮に5%フルで投資しても3~4億ドルにすぎません。BTCの24時間現物取引高は普段から600~700億ドル規模なので、0.1%にも満たない買い圧力です。

にもかかわらず、州政府が「公式にBTCを抱える」というストーリーは投資家心理を刺激しがちです。実際、5月6日に米ニューハンプシャー州、8日にアリゾナ州が相次いで法案に署名した後、BTCは48時間で9.6万ドル付近から10万ドル近辺まで上昇し、SNS上の「Bitcoin Reserve(政府備蓄)」関連キーワードの言及率も急増しました。しかし取引量の大幅増加は見られず、値動きは「ニュースヘッドラインによる短期上昇」という色合いが強いと分析されています。

また、ビットコインは過去のボラティリティ(30日実現ボラで45~50%)が極めて高水準であることにも注意が必要です。もし一時的に20%以上の暴落が発生すれば、米ニューハンプシャー州の場合は州基金の評価額が大きく減り、政治的な批判にさらされるリスクがあります。アリゾナ州の場合はステーキングやカストディの不備による追加コストが発生する可能性もあり、慎重な運用が求められます。

ビットコイン時価総額、Amazon超えで世界5位

さらに最新の動向として、PANewsは5月9日の報道で「ビットコインの時価総額が2.044兆ドルとなり、Amazonを超えて世界の主要資産ランキングで5位に浮上した」と伝えています。 こうした時価総額の急伸も、各州の立法から連想される「オフィシャルな買い支え」への思惑と結びつきやすいといえます。ただしあくまで時価総額は概算値であり、地域の取引所や流動性が限定された取引ペアによる価格乖離も考慮すべきでしょう。

ニュースの解説

本記事で取り上げた各州のビットコイン備蓄法案は、立法の可決=即時大規模買いとは必ずしもなりません。実際には「予算の別途承認」や「寄付・無主資産の回収」など複数のプロセスを要し、投入額も市場から見ると微々たるものです。したがって、ビットコインの再破10万ドル達成がこれら州政府の動きだけで担保されるとは考えにくい面があります。一方で、公式な公的機関の参入は「BTCが合法的な価値貯蔵手段」として認められつつある証左にもなり、今後の拡大余地が注目されるのも確かです。こうした「政府HODL」のニュースが投資家心理に影響を与え、短期的な上昇を後押しするシナリオは十分に想定されます。ただしボラティリティや技術リスク、政治的な駆け引きが大きい点を踏まえれば、過度な期待を抱くよりも、各州の財政委員会や実際の買付履行状況を冷静に追いかける必要があるでしょう。