ビットコイン財務戦略2025:国家と企業

▽ 要約

フィリピン:1万BTC備蓄法案、5年取得・20年保管
香港:ミンシンが4,250BTC契約、社債+ワラント
欧州:Amdaxが上場準備、BTC供給1%目標
企業:AsiaStrategyはBTC決済、Strategyは62.9万BTC

各国・企業はビットコインを「準備資産/財務資産」としてどう扱い始めたのかという疑問に対し、2025年は制度と実装が同時進行で進んだ年だ。結論は明快で、国家は長期備蓄の枠組みを、企業は資本政策と決済の実務を整えつつある。本稿はフィリピンの1万BTC法案、香港・欧州の動き、上場企業の実務を横断整理し、ビットコイン財務戦略 2025 の全体像と実務的含意を短時間で把握できるよう解説する。

フィリピン:戦略的ビットコイン準備法案(HB 421)

BSPが5年で計1万BTCを取得し20年保管する制度を法定化するため、外貨・金に次ぐ「デジタル黄金」の国家備蓄を狙う。
法案は2025年6月に下院へ提出され、BSPに毎年2,000BTCずつ(5年で1万BTC)を積み増す「購入プログラム」を義務付ける。取得資産は原則20年間売却・処分できず、政府債務の返済など限定目的に限る。秘密鍵は全国分散のコールドストレージで管理し、中央銀行総裁に四半期ごとの保有証明(PoR)報告と外部監査選任を義務化する。国内では多様化を評価する声と、ボラティリティや機会費用を懸念する向きが併存する。

制度設計と透明性

購入を分散しPoRを定期化したため、市場インパクトを抑えつつ長期保管と監督の両立が可能となる。
20年のミニマム保有、フォークやエアドロップの管理、四半期レポート公開、第三者監査の条項が柱だ。説明資料ではBTCの年平均約40%成長や各国の備蓄議論を参照し、外貨・金に加える第3の準備資産としての妥当性を強調する。2024年末の政府債務16.09兆ペソという財政背景も、分散の必要性を後押しする。

国内外の反応と論点

アジア初の事例となる可能性があるため、周辺地域の準備戦略にも影響を与える一方、価格変動とロックアップ期間の長さが争点となる。
支持派は通貨安・インフレのヘッジを評価し、慎重派は評価損の振れ幅や20年拘束の機会費用を指摘する。成立すれば制度先例としての意味が大きく、政府系ファンドがBTCを蓄える国々の潮流にアジアから参加する構図となる。

香港:ミンシン(Ming Shing)の4,250BTC取得契約

現金流出を抑える転換社債+ワラントの組成で4,250BTCを取得するため、資本構成を活用した財務戦略に踏み込んだ。
ミンシン・グループ(NASDAQ: MSW)は英領ヴァージン諸島法人から4,250BTC(約4.83億ドル)を取得する契約を締結。10年物・年利3%の転換社債と12年満期の新株予約権で対価を支払う。クロージングは2025年末予定で、完了時の保有は約5,083BTCに達し、香港企業で最大級となる見込みだ。

市場反応とリスク

発表直後に株価は一時30%前後上昇したが、希薄化や本業との乖離がボラティリティ要因となる。
市場は「疑似BTC ETF」的な評価で取引が活況化した一方、エクイティ連動の対価は希薄化を伴う。なお同社は2025年初に500BTC購入を発表、3月に333BTCの合意も開示したが、8月時点の修正6-Kでは未決済と記載されるなど、開示のフォローが重要となる。

欧州:Amdaxによる「上場型BTC財務会社」構想

AMBTSを設立しユーロネクスト上場を目指すため、機関投資家が証券経由でBTCパフォーマンスにアクセスできる経路を整える。
オランダのAmdaxは「Amsterdam Bitcoin Treasury Strategy(AMBTS)」を立ち上げ、プライベート調達→IPO→追加調達でBTCを蓄積し、一株当たり保有量の増加と株主価値の循環的向上を狙う。長期目標はBTC供給の1%=約21万BTC。DNB登録やMiCAライセンス、ISAE 3000 Type II監査など規制適合を前面に出す。

ビジネスモデルと規制優位

段階的な資本市場調達でビットコイン保有を拡大できるため、欧州の年金・保険など直接保有しづらい主体にも門戸が開く。
Amdaxはカストディや統制の実績があり、独立ガバナンスのAMBTSと連携しつつアームズレングスで運営する計画だ。欧州でETF整備が遅れる中、上場会社という器で準ETF的なエクスポージャーを提供する意義は大きい。

関連:各国のビットコイン国家備蓄とブラジル公聴会

ラグジュアリー×BTC:AsiaStrategyの改名と決済導入

高級時計販売でビットコイン決済を受け入れることで、財務(保有)と商取引(決済)を連動させたモデルを打ち出した。
Top Win Internationalは2025年8月22日に「AsiaStrategy(SORA)」へ改名し、ロレックス等の時計販売でBTC決済を正式導入。Web3への事業転換と、自社トレジャリーのビットコイン戦略を前提に、暗号資産富裕層の需要を直接取り込む。関連ファンドとの連携や資本政策も併走する。

顧客戦略と実装上の留意点

暗号資産長者の利便性を高める一方、受領後の価格変動やコンプライアンス運用の標準化が競争力を左右する。
決済には即時レート換算と受領確認の体制が不可欠で、換金か自社保有かの方針でリスクプロファイルが変わる。高額商材ゆえKYC/AMLや返品・返金時の処理設計も重要だ。

マイケル・セイラーと「Strategy」の世界的影響

大規模な負債・増資を活用してBTCを積み増したため、上場企業のトレジャリー運用の新潮流を示した。
Strategy(旧MicroStrategy)は2025年8月時点で62万9,376BTCを保有し、8月11日に商号変更を完了。直近でも430BTCを追加購入した。価格上昇局面で同社株はプレミアムを得る一方、著名ショートからはバリュエーションの妥当性や希薄化リスクへの批判も根強い。

評価の分岐と模倣の連鎖

「デジタル資産の希少性を高める戦略」との評価がある一方で、「現物でよいのでは」との反論が企業価値の揺らぎを生む。
同社の手法は各国企業の追随を促し、アジアでもミンシンやAsiaStrategyなどの動きが顕在化した。資本市場とBTCの連動度が高まるほど、会計・開示・ガバナンスの質が投資家保護の鍵となる。

▽ FAQ

Q. HB421の購入量・保管期間は?
A. BSPが2,000BTC/年×5年で計1万BTC取得、20年保管し四半期PoRを公表。

Q. ミンシンの4,250BTC契約の支払い方法は?
A. 10年満期3%の転換社債と12年ワラントで対価支払い、2025年末にクローズ予定。

Q. Amdax/AMBTSの上場計画と目標は?
A. ユーロネクスト上場を目指し、長期でBTC供給1%(約21万)保有を掲げる。

Q. AsiaStrategyは何を開始し、銘柄は?
A. 2025-08-22にBTC決済を導入。NASDAQのティッカーはSORA。

Q. Strategyの最新保有と社名変更日は?
A. 2025-08-18に62万9,376BTC、商号は2025-08-11にMicroStrategyから変更。

■ ニュース解説

各国の制度設計と企業の実装が並行して進んだため、国家は長期備蓄の枠組みを整え、企業は資本政策や決済でBTCを業務へ結び付けた。
事実として、フィリピンはBSPの取得・保管・PoRを法案化、香港ではミンシンがエクイティ連動で大量取得に踏み出し、欧州ではAmdaxが上場器を準備し、アジアの小売ではAsiaStrategyが決済導入、米国ではStrategyが保有を積み増した。背景にはBTCの金融インフラ化、規制の整備、資金調達の多様化がある。影響として、準備資産の多様化と、株価・信用・為替とビットコイン価格の連動度上昇が挙げられる。

投資家の視点:国家は保有設計と鍵管理・監査の厳格化、企業は資本政策(希薄化・レバレッジ)と会計・開示の一貫性、そして決済企業は価格変動・コンプライアンス運用の標準化を重視したい。ポートフォリオでは「BTC現物・ETF・上場トレジャリー企業・関連ボンド」をリスク許容度で使い分け、単一イベント依存を避ける分散が有効だと考えられる。

※本稿は投資助言ではありません。