12月11日ビットコインスーパーサイクルとFOMC後の暗号資産展望

▽ 要約

FOMCは25bp利下げとRMP開始を決定、流動性相場再点火の可能性。
CZやBitwiseが「4年周期終焉」とスーパーサイクル論を提示。
UAE台頭やXiaomi×Sei提携で採用面の中東・モバイル軸が鮮明。
量子計算リスクは長期だが、実装バグと詐欺被害が当面の焦点。

FOMC後の流動性環境とビットコイン スーパーサイクル論、UAEや量子計算リスクを横断し、2026年を見据えた暗号資産市場の論点を整理します。

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投資家にとって2025-12-11は、FOMCの利下げと「準QE」とも言えるRMP開始が重なり、ビットコインの次のサイクル像を考え直すタイミングになりました。従来の4年周期を否定するスーパーサイクル論、UAEの「新たなスイス」化、スマホにプリインされるWeb3アプリ、量子計算の脅威評価まで、材料は多岐にわたります。本稿では、これら分散したヘッドラインを一つのストーリーとして束ね、2026年に向けて何が変わりつつあるのか、何がまだ変わっていないのかを解説します。

市況総括:FOMC利下げとRMP、ビットコインは「流動性相場」再開か

FOMCと量的緩和に近い新たな債券購入策が同時進行することで、ビットコインを含むリスク資産が再び流動性ドリブンの局面に入るかどうかが、12月以降の最大の争点です。

2025-12-10のFOMCは、政策金利を3.75%-4.00%から3.50%-3.75%へ25bp引き下げ、今年3回目の利下げを実施しました。あわせて2026年の利下げは1回のみというドットチャートを維持し、「これ以上の利上げは想定していないが、大幅な追加利下げも見込んでいない」というメッセージを強調しています。

一方で、注目度が急速に高まっているのが「Reserve Management Purchases(RMP)」です。FRBとニューヨーク連銀は、12月12日から30日間で約400億ドル規模の短期国債を購入し、銀行準備の水準をテクニカルに補充すると発表しました。今後数カ月はこのペースが続く可能性も示唆されており、「QTは終了したが、QEではない」という微妙なニュアンスのオペレーションが始動します。

PANewsが整理した直近のオンチェーン・デリバティブ指標を見ると、この金融環境の変化とビットコインの価格水準には既に連動の兆しが出ています。2025-12-10 13:00(HKT)時点でビットコインは92,591ドル(年初来-1.05%)、イーサリアムは3,324ドル(同-0.2%)と年初水準近辺で推移しつつ、恐怖・強欲指数は25の「恐怖」ゾーンに位置しています。24時間ベースの現物取引高はBTCが約527.3億ドル、ETHが約343.1億ドルと高水準を維持し、AI銘柄やMeme銘柄がセクター別で+5%超のアウトパフォームを記録しています。

ETFフローも、ややリスクオン寄りに傾きつつあります。12月9日までのデータでは、ビットコイン現物ETFのネット流入が1.52億ドル、イーサリアム現物ETFが1.78億ドル、SolanaとXRPのETFにもそれぞれ1,654万ドル、873万ドルの資金が流入しました。これはレバレッジの効いたデリバティブではなく、現物ベースの商品に資金が入っている点で、2021年のバブル期とは質の異なる動きです。

一方で、PSIP(Price Savings in Profit)のようなオンチェーン指標は、楽観一辺倒を戒めています。PANewsが引用するアナリストは、利益状態の供給割合が50%を下回ると熊相場底打ちゾーンに入るとし、現状水準から逆算したビットコインの「統計的な安値候補」を6.2万ドル前後と試算しています。現実の価格は9万ドル台にあるため、「短期的には上に行く余地もあるが、流動性相場の反動も相応に大きくなり得る」という二面性を示しています。

関連:ケビン・ハセットと仮想通貨・FRB

サイクル研究者とCIOが見る「底」と「2026年」

マクロ環境の変化と並行して、サイクル研究者と機関投資家はビットコインの時間軸を再定義しようとしています。

周期研究者のRichard Smith博士は、ビットコインは現在「底を探る局面」にあり、12月末~1月初旬にかけては季節性が最も強気になりやすい時期に入ると指摘します。彼は、FRBが2025-12-01にQTを停止し、短期債購入を通じて流動性を戻し始めたことを「隠れたQE」と位置づけ、流動性に最も敏感な資産であるビットコインにとっては追い風になり得ると見ています。

ただし、博士は同時に「万物バブル」のリスクも強調しています。国家債務と金利水準の組み合わせから、2026年中盤を一つの転換点候補と見ており、その頃には利回り急騰や財政赤字の重荷を通じて、広範なリスク資産の再評価が起こり得ると警鐘を鳴らしています。短期的な強気シーズンと中期的なマクロリスクが同居している、というのが彼の基本認識です。

規制・地政学:UAEは「新たなスイス」、日米欧も制度設計を加速

規制と地政学の変化が、資金と人材の流入経路を変えつつあり、ビットコイン スーパーサイクル論の前提にもなっています。

UAE(アラブ首長国連邦)は、PANewsが「加密巨头の新瑞士」と表現するほど、加密企業の新たな集積地になりつつあります。2025-12-08には、バイナンスがアブダビのADGMからフルライセンスを取得し、2026-01-05までに取引所・清算・ブローカーの3法人体制に再編する計画を発表しました。TetherはUSDTが「法定通貨参照トークン」として認定され、CircleもADGMでのマネーサービス・プロバイダー認可を受けています。RippleはDFSAからブロックチェーン決済のライセンスを取得し、RLUSDステーブルコインの利用も拡大しています。

さらに、ApeX Protocolなどの調査によれば、UAEでは人口の約25.3%が暗号資産を保有しており、2024〜2025年の暗号流入額は560億ドルを超え、MENA地域では第2位の市場規模に達しています。非石油産業がGDPの70%以上を占める同国は、主権ファンドを通じてマイニングや暗号関連企業に投資し、「ポスト石油」経済の中核にデジタル資産を据えようとしていることがうかがえます。

一方、米欧日はルールメイキングの局面に入っています。米国では、Gillibrand上院議員とLummis上院議員が主導する「暗号市場構造法案」が週末までに草案が共有され、翌週には公聴会と採決が予定されています。SECは多数のICOを「証券ではない」と位置づけるスタンスを示し、トークン分類の明確化を進めています。日本は取引所に責任準備金または保険加入を義務づける方向で検討しており、ハッキング時の顧客補償を制度的に担保しようとしています。

フランスは、2025年10月以降のリテール向け暗号ETN販売禁止を転換し、一定条件を満たす指数型ETNを個人投資家にマーケティングできるよう規制緩和を進めています。英国FCAも同様の方向性を示しており、欧州では「完全禁止」から「条件付き許容」への軌道修正が進行中です。

こうした制度設計の加速は、CZが語るスーパーサイクル論とも整合的です。彼はアブダビでのイベントで、従来の4年サイクルは影響力を失いつつあり、機関と規制資本のフローがより強力なドライバーになると述べました。国家レベルでビットコインを準備資産に組み入れる議論が米国で起これば、他国が追随する可能性にも言及しており、「法制度+国家レベル需要+機関マネー」が新たな長期サイクルの三本柱になるという視点です。

企業・プロジェクト動向:モバイル・RWA・メメコインの光と影

FOMCや規制だけでなく、採用のフロントラインにあるプロジェクトの動きも、2026年像を形づくる重要なピースです。

Sei NetworkはXiaomiと提携し、中国本土と米国を除く新型スマートフォンにSeiベースのWeb3ウォレット兼ディスカバリーアプリをプリインストールする計画を発表しました。機能はステーブルコイン決済、P2P送金、DApp接続をカバーし、2026年Q2の本格提供を目標としています。また、Seiは5百万ドル規模の「グローバル・モバイル・イノベーション・ファンド」を設立し、消費者デバイス上でのブロックチェーン活用を促進するとしています。

スマホ標準機能としてのWeb3ウォレットは、これまで暗号資産のオンボーディングで最大のボトルネックだった「鍵管理」と「アプリの発見」をハードウェア側から解決し得るアプローチです。特に、香港やEUのように規制が比較的明確で、ステーブルコイン決済の需要が高い市場から順次展開する点は、規制・技術・UXを同時に考慮した戦略と評価できます。

他方で、メメコインとSNSアカウント乗っ取りに起因するリテール被害も顕在化しています。バイナンス共同創業者の何一氏は、あまり使用していなかったWeChatアカウントがハッキング被害に遭い、攻撃者がそのアカウントを通じて特定のメメコイン購入を煽ったと説明しました。彼女は個人資産のBNBを拠出し、被害期間中にBinance無保管ウォレットやAlphaプラットフォームでその銘柄を取引し「絶対損失」を出したユーザーに対し、24時間以内を目処に空投で補填するとしています。同時に、本人およびバイナンス社員はメメコインを推奨しないこと、メメコインは長期的な価格支えを欠くことを改めて強調しました。

PA日报では、他にも複数の動きが整理されています。SpaceXが1,021BTC(約9,448万ドル相当)を新しいウォレットへ移転したほか、Real FinanceがRWAトークン化ネットワークとして2,900万ドルの資金調達を実施し、プライバシーブロックチェーンOctraが2億ドル評価で2,000万ドルのトークンセールを予定していると報じられています。メメコイン「TRUMP」は自社トークンを用いたゲームを開発中であり、「価格以外のユーティリティ」を付与する動きも見られます。

市場ドライバーとしての機関マネーについては、BitwiseのCIOであるMatt Houganが詳細な見解を示しています。彼は、2018年や2022年のような「4年サイクルの調整年」は再現性が薄れつつあり、代わりにBank of America、Morgan Stanley、UBSなどが保有する15兆ドル超の資産が、ゆっくりと暗号資産配分を拡大している点を最重要の変化として挙げています。また、オンチェーンに現れない「隠れた売り圧」として、長期保有者によるビットコインを担保にしたカバード・コール戦略が数十億ドル規模に達している可能性にも言及しつつ、2026年については「下落年ではなく強い年」になるとの見通しを示しました。

さらに、a16zが公表した「Big Ideas 2026」では、AIエージェント原生のインフラ、結果ベース課金モデル、世界モデルを用いたインタラクティブな3D空間など、AIを起点とする構造変化が描かれています。これらは直接的に暗号資産価格を説明するものではありませんが、「AIエージェントが主体的に経済活動を行う世界」において、オンチェーン資産やプログラマブルマネーがどの程度インフラとして組み込まれるかは、長期の投資テーマとして無視できない論点です。

技術・リスク:量子計算の脅威と、より差し迫った実装リスク

長期テーマとしてよく話題に上るのが、「量子計算がビットコインやイーサリアムをいつ破るのか」という問いです。

Justin Thalerは、現在の量子ハードウェアと公開されたロードマップを踏まえると、RSA-2048やsecp256k1を実用的時間で破る「暗号関連量子計算機(CRQC)」が2020年代に登場する可能性は極めて低いと分析しています。Shorアルゴリズムを実用レベルで走らせるには数十万から数百万の物理量子ビットが必要であり、現状の1,000量子ビット前後のシステムは、量子誤り訂正も本格的に回り始めていない段階にあるためです。

彼は、企業やメディアが「論理量子ビット」や「量子優位性」という言葉をマーケティング的に用いすぎており、実際の進捗とのギャップを過大評価しがちだと指摘しています。現在「論理量子ビット」と称されているものの多くは、実際にはエラー検出レベルに留まり、Shorアルゴリズムに必要な多数の高忠実度・長深度回路を支えるものではありません。

その上で、ブロックチェーンにとっての優先課題は次のように整理されます。

  • 長期秘匿性が求められるデータ(医療・国家機密など)については、「先取り保存・後日解読(Harvest-Now-Decrypt-Later, HNDL)」攻撃に備え、直ちに古典+ポスト量子を組み合わせたハイブリッド暗号を導入すること。
  • 署名アルゴリズムのポスト量子化は、鍵サイズや性能劣化、実装の成熟度不足といったコスト・リスクが大きく、拙速な全面移行はむしろ新たな脆弱性を生みかねないこと。
  • ゼロ知識証明や複雑なスマートコントラクトにおいては、量子計算よりも、実装バグやサイドチャネル攻撃、形式検証の不足といった「今そこにある脅威」への対応が優先順位として高いこと。

この観点から見ると、何一氏のWeChat乗っ取りや、ダークネット由来ウォレットからの資金移動といったニュースは、「量子未来」よりもはるかに近いリスクを示しています。技術が高度化するほど、人的なセキュリティ・オペレーションとガバナンスがボトルネックになりやすく、量子計算への備えも最終的には人間側の設計と管理能力に依存することを改めて示していると言えます。

▽ FAQ

Q. 2025年12月のFOMCでは暗号資産市場にどのような影響があったか?
A. 2025-12-10のFOMCは25bp利下げと12月12日からの約400億ドルRMP開始を決定し、ETF資金流入やビットコイン9.2万ドル台維持を通じて流動性相場再開期待を高めました。

Q. ビットコイン スーパーサイクル論の中心的な主張は何か?
A. CZやBitwiseは、2025年以降は減半よりも15兆ドル超の機関マネーと、UAEや日本などの規制進展、各国の準備資産需要が価格サイクルを決める主因になるとし、2026年以降も4年周期的な大暴落は起こりにくいと述べています。

Q. UAEが「新たなスイス」と呼ばれる理由は?
A. 2025年にはバイナンスやTether、Circle、RippleがADGMやVARAで主要ライセンスを取得し、非石油産業がGDPの70%超、暗号保有率25.3%、2024-2025年の流入額560億ドル超という数字が、アブダビを機関投資のハブと位置づけています。

Q. XiaomiとSeiの提携は暗号採用にどのような意味を持つか?
A. Seiは2025-12-10、小米の新型スマホにWeb3ウォレットをプリインストールし、2026年Q2までに香港・EUで展開予定と発表し、2万店超の小売網と500万ドルファンドにより、日常決済とDApp利用のハードルを引き下げる狙いを示しました。

Q. 量子計算はいつビットコインの安全性を揺るがし得るか?
A. Justin Thalerは、RSA-2048やsecp256k1を破るCRQCには数十万~数百万物理量子ビットが必要で2030年代前半の実現も不透明とし、当面はHNDL攻撃や実装バグ、2025年以降のZKプロトコルの安全設計が優先課題だと指摘しています。

■ ニュース解説

FOMCの25bp利下げとRMP開始は、名目上は「テクニカルな流動性管理」に留まるものの、実際にはQT終了後のバランスシート再拡大を通じて、ビットコインを含むリスク資産のボラティリティとリスクプレミアムを再評価させる出来事となりました。一方で、2026年の利下げパスは限定的で、財政主導・高債務環境が続くとの前提は変わっていません。

こうしたマクロ環境のもとで、CZやBitwise CIO、Cathie Woodらが共通して指摘しているのは、「減半を軸とした4年サイクルは鈍化しつつあり、機関マネーと規制資本がもたらす新しい時間軸が立ち上がっている」という点です。UAEに代表される規制の明確なハブに資金が集まり、米欧日はようやく包括的な市場構造法制の土台を整えつつあります。ここに、XiaomiとSeiのようなコンシューマー向けユースケースや、RWAネットワーク、AIエージェント原生のインフラといったトレンドが重なり、暗号資産は単独のアセットクラスから、より広いデジタル経済のインフラ・ツールへと性格を変えつつあるように見えます。

ただし、スーパーサイクル論が意味するのは「永遠の上昇」ではなく、「下落のタイミングや深さが従来のパターンからずれる」という程度の話に留めるべきでしょう。Richard Smith博士が指摘するように、2026年前後には高債務・財政赤字・金利構造の調整を通じたマクロショックが発生し得ますし、オンチェーン指標も6万ドル台前半までの調整余地を示唆しています。

量子計算の脅威についても、技術的なタイムラインを見る限り短期的な価格要因にはなりにくく、むしろ「長期秘匿データの保護」と「将来のマイグレーションコスト」をどう配分するかというシステム設計上の課題として捉えるのが現実的です。当面のリスクは、ハッキング、SNS乗っ取り、コントラクト実装バグ、レバレッジの取りすぎといった、ごく人間的な領域にとどまっています。

投資家の視点:
2026年を見据えるうえで重要なのは、「4年周期だから」という単純な経験則ではなく、
(1) マクロ流動性(RMPの規模やETFフロー)、
(2) 規制と地政学(UAE・米日欧の法整備)、
(3) 採用チャネル(スマホや決済、RWA、AIエージェント)がそれぞれどの時間軸で収斂してくるかをモニタリングすることです。
そのうえで、価格ボラティリティの低下とドローダウンの変化が本当に「構造変化」なのか、単なる一時的な現象なのかを、レバレッジ水準や市場構造とセットで検証していく姿勢が求められます。本稿で触れた内容はいずれも仮説レベルのものであり、ポートフォリオ全体のリスク管理と時間分散を前提に、個々の投資判断は慎重に行う必要があります。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:PANews