各国のビットコイン国家備蓄とブラジル公聴会

▽ 要約

世界:米中や英・エルサルバドル等が国家備蓄を保有。
ブラジル:8/20にRESBit公聴会、最大5%案を審議。
姿勢:中銀・財務は高い価格変動で不適切と反対。
危険性:分散と主権強化の狙いも、導入は段階的。

各国がビットコインを国家備蓄にどう位置付けるかは、通貨体制・財政・地政学リスク管理に直結する。結論として、米国は押収資産を核に国家備蓄化へ舵を切り、中国・英国は大量押収分を抱えつつ処分方針が流動的、エルサルバドルとブータンは自主的蓄財を継続している。一方、ブラジルのRESBitやロシアの検討は慎重論が優勢だ。本稿ではビットコイン国家備蓄の全体像と8/20のブラジル公聴会の論点を解説する。

主要国のビットコイン備蓄の現状

各国は取得経路が異なるため、押収由来は政策で売却/保有が揺れ、自主取得は戦略投資色が強まった。

米国(差押え資産の「戦略的備蓄」化)

2025年3月6日の大統領令で「戦略的ビットコイン備蓄(SBR)」創設が発表され、連邦が保有する没収BTCを原則売却せず長期備蓄とする方針が示された。連邦の保有は推計約20万BTC規模で、事実上の「デジタル版フォートノックス」と位置付けられる。

中国(PlusToken由来の巨額押収、扱いは不透明)

2019年摘発のPlusToken事件で19万BTC規模が押収されたと報じられ、依然として当局管理下にあるとの見方もあるが、売却・移転の観測も交錯し、公式な準備編入は確認されていない。

英国(6.1万BTC押収、処分方針を巡る議論)

ロンドン警視庁が押収した約61,000BTCは英国史上最大級で、CPSが民事回収手続きを進める一方、売却か保有かを巡る議論が続いている。結論は確定しておらず、政策判断が焦点だ。

エルサルバドル(法定通貨採用と段階的買い増し)

保有は6,000BTC超と推計され、価格上昇で評価益が拡大した。他方、IMF向け説明では2025年2月以降の追加購入停止が示唆され、運用の透明性と政策調整が課題となっている。

ブータン(再エネ活用の国家マイニング)

国営DHIが水力発電を用いたマイニングと投資で蓄財し、オンチェーン分析では1.3万BTC超の保有と推計される。グリーン電力を外貨相当資産へ転換する戦略が特徴だ。

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ブラジルRESBit公聴会(2025年8月20日)の論点

初の公聴会が8/20に下院経済開発委員会で開催され、PL4501/2024(外貨準備の最大5%をBTCに配分)を巡り賛否が対峙した。会期・会場・議題は下院公式に記録されている。

反対(中銀・財務当局)

ブラジル中央銀行・財務当局は「高ボラティリティで準備三要件(安全性・流動性・安定価値)に不適合」として否定的姿勢を表明し、5%組入れはリスク指標を悪化させると説明した。

賛成(副大統領府・与党議員・業界)

賛成派は「デジタル金」としての希少性・24時間流動性や、ビットボンド等の政策応用を強調し、分散と主権強化の観点から長期導入を主張した。

今後の手続き

採否は未定で審議継続。委員会要請に基づく公聴会は論点整理の段階であり、修正・影響評価・財源裏付けの精緻化が次段階となる。

検討・議論が進む国(ロシア/ベラルーシ)

提案や方針表明は相次ぐが、制裁対応や電力事情など国内要因で温度差がある。

ロシア(提案→不採用の判断)

2024年末に下院議員が戦略的BTC備蓄を提案したが、2025年3月に財務省が国家福祉基金(NWF)への暗号資産組入れを否定し、人民元・金の枠組みを維持すると表明した。

ベラルーシ(余剰電力での国家マイニング示唆)

2025年3月、ルカシェンコ大統領が「余剰電力でマイニングを」と指示し、米国の備蓄方針にも言及。国家主導マイニングの検討が本格化した。

各国の推定保有状況(2025年中盤)

推定値は公的発表・裁判資料・オンチェーン分析の総合に基づき、価格は時点により変動する。

  • アメリカ合衆国:≈198,000 BTC(差押え由来中心)
  • 中華人民共和国:≈190,000 BTC(PlusToken押収由来が中心)
  • 英国:≈61,000 BTC(差押え・民事回収手続き中)
  • エルサルバドル:≈6,200 BTC(政府購入・蓄財)
  • ブータン:≈13,000 BTC(国家マイニング由来)

▽ FAQ

Q. 米国は本当にBTCを国家備蓄化したのか?
A. 2025年3月6日、大統領令で戦略的ビットコイン備蓄を創設し、売却停止・長期保有の方針を示した(推計約20万BTC)。

Q. ブラジルのRESBit法案は何%をBTCに?
A. PL4501/2024は外貨準備の最大5%をBTCに配分する案で、2025年8月20日に下院経済開発委で公聴会が実施された。

Q. 中国の19万BTCは国家備蓄なの?
A. PlusToken押収分の存在は確かだが、備蓄編入や売却の公式説明はなく、保有実態は不透明とされる。

Q. ブータンはどのようにBTCを蓄えている?
A. 国営DHIが水力発電でマイニングし、オンチェーン推計で1.3万BTC超を保有するとの分析がある。

Q. エルサルバドルの直近の購入状況は?
A. 2025年7月公表の情報では2月以降の追加購入は停止とされ、保有は約6,200BTC超の推計が流布している。

■ ニュース解説

各国が異なる経路でBTCを抱える一方、押収資産は売却/長期保有の政策判断が割れ、準備資産採用はボラティリティのため慎重姿勢が主流となる。米国の備蓄化が象徴的な転換点となり、審議は加速した。

投資家の視点:各国の動向は需給・政策リスクの両面で価格形成に影響する。短期は政策ニュースに振れやすく、長期は国家・機関の保有拡大余地が需給タイト化を促す可能性があるが、規制・会計・保管の制度整備を伴うまで過度な前提は避けたい。

※本稿は投資助言ではありません。

(参考:The White House,Câmara dos Deputados