ビットコイン4年周期は崩壊か:ヘイズ論

▽ 要約

マクロ:FRB利下げとPBoC資金供給で流動性拡大。
ヘイズ:4年周期よりドル・元の信用拡大が価格を動かす。
米中:米9月利下げ、10月も高確率/中国は1.1兆元注入。
リスク:政策反転や過熱で急落も、ETF需給は下支え。

投資家の関心は「次も4年周期通りに天井と崩落が来るのか」に尽きるが、結論は「単純なカレンダー循環では測れない」である。アーサー・ヘイズは米ドル・人民元の流動性が相場を決めるとし、米中の緩和スタンスが続く限り強気は延命しやすい。ビットコイン4年周期という通俗的フレームを疑い、マクロ指標と需給の実像を見ることが本稿の狙いである。

4年周期の歴史と半減期の相関

半減期の前後に上昇し1~1.5年後にピークを付けやすいが、転換点はしばしば主要中銀の金融引き締めや流動性縮小と重なってきた。
2012年半減→2013年末高騰と急落、2016年半減→2017年末高値後に約80%下落、2020年半減→2021年11月の史上高値後に2022年の深い調整という「教科書的」推移は広く知られる。一方、価格天井が米国の利上げや量的引き締め、あるいは中国の信用緊縮に重なった事実は、供給ショックだけでは説明し切れないことを示す。

2012–2021の3サイクルを俯瞰

各ピークはドル・元の信用拡大の鈍化で失速し、FRBのタカ派転換や中国の与信縮小と同期したため、半減期単独では相場の山谷を説明できない。
第1期(2009–2013)はQEと中国の信用拡大で上昇後、流動性の減速で崩壊。第2期(2013–2017)は人民元資金の外洋化とICOブームで膨張し、米利上げと中国の引き締めで終幕。第3期(2017–2021)はコロナ期のヘリマネ・ゼロ金利で加速し、2021年後半のインフレ高進を受けた引き締めで反転した。

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ヘイズの主張――「王は死んだ」、動かすのは流動性

年数に基づくサイクル論ではなく、米ドルと人民元の流動性が市場サイクルを規定するとし、政策の転換が相場の転換点になると論じる。
ヘイズは「Long Live the King!」で、2014・2018・2022年の弱気入りは半減期ではなく世界的な金融引き締めが引き金だったと整理。現在は米中とも緩和方向で、「安価で豊富なマネー」が新局面をもたらすとする。

第4局面(2021–)の前提――米は利下げ、中国は資金供給

FRBは2025年9月に政策金利を4.00~4.25%へ引き下げ、10月追加利下げの織り込みも極めて高い一方、中国人民銀行は9~10月に大型アウトライト・リバースレポで資金を注入した。
米国では政策金利低下で資金コストが下がり、RRP残高の縮小と財務省のTビル増発を通じたマネー還流も重なる。中国はデフレ圧力下で数量型ツールを積極化し、1兆~1.1兆元規模の操作で流動性を厚くした。両大国が同時に緩和的な環境を示せば、BTCの需給は締まりやすい。

構造変化と残るリスク――「今回は違う」か

ETFと機関投資家の保有拡大で現物の吸収力が増し、相場の上昇はより秩序的になったが、群集心理の反転や政策の再タカ派化があれば急落は起こり得る。
2024年のスポットETF解禁以降、ネットフローは新規発行を上回る局面が増え、長期保有の増加・取引所在庫の減少も供給の薄さを示す。一方、インフレ再燃や景気後退によるリスクオフ、規制ショックはサイクルの長期化仮説を簡単に崩しうる。

識者の見立て――収斂と対立

4年周期の弱体化に同調する声と、なお心理サイクルの再現を警戒する声が併存する。
Bitwiseのマシュー・ハウガンは「4年周期は終わり」と述べ、K33のVetle Lundeは価格決定が構造的要因に移ったと分析。ラウル・パルは「サイクルは長期化」と示唆する一方、ピーター・ブラントは「逸脱なら劇的な値動き」の警鐘を鳴らす。市場は「流動性相場の継続」対「歴史の再演」の綱引きにある。

▽ FAQ

Q. アーサー・ヘイズは何を主張している?
A. 半減期より米ドル・人民元の流動性がBTCを支配、2025年は緩和が追い風とする。

Q. 直近のFRBの動きは?
A. 2025年9月に4.00~4.25%へ0.25%利下げ、10月・12月も利下げ観測が強い。

Q. 中国人民銀行は何をした?
A. 2025年9月1兆元、10月1.1兆元のアウトライト・リバースレポで資金注入。

Q. ETFは価格にどう影響?
A. 2024年解禁の現物ETFに資金流入が続き、新規供給の複数倍を吸収する局面がある。

Q. それでも下落は来ない?
A. インフレ再燃や政策反転、過熱時の清算連鎖で急落は起こり得るため警戒は必要。

■ ニュース解説

米中が緩和方向のため世界の流動性は厚みを増しつつあり、歴史的に弱気入りを招いた引き締め局面とは条件が異なる一方で、インフレ再燃なら再度の引き締めに転じる可能性が残る。
FRBは2025年9月に0.25%利下げ、PBoCは9~10月に1兆~1.1兆元を注入したため、インフレは鈍化も目標超で米労働市場の減速懸念と中国のデフレ圧力が緩和バイアスを生み、BTCは「安価で豊富なマネー」の追い風を受けやすい一方で政策反転やボラ拡大時の下振れリスクは残る。
投資家の視点:マクロ指標(政策金利、FedWatchの利下げ確率、RRP残高、米財務省の短期債増発、PBoCのOMO)と現物ETFのネットフロー・取引所在庫をダッシュボード化して監視し、ボラ上昇局面ではエクスポージャー調整とリスク管理を優先する。

本稿は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

(参考:Federal Reserve,Federal Reserve,The U.S. OFR