Bitcoin for America法案:BTC納税を解説

▽ 要約

制度:BTCで連邦税を納付できる条文を新設
税務:納税分のBTCは譲渡損益を原則認識しない
備蓄:受領BTCはSBRへ積立、20年の売却制限
論点:レート算定・AML・保管体制が審議の焦点

米下院で提出されたH.R.6180は、ビットコインで連邦税を納め、受領分を戦略的ビットコイン準備金に長期保有する枠組みを定めた。

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米国で「税金をビットコインで払える日」は来るのか。2025-11-20に提出されたBitcoin for America法案は、BTC納税を可能にしつつ受領分を国家準備金へ積み上げる設計だ。税務の扱いと市場への含意を短時間で把握できるよう解説します。

BTC納税でSBRを増やす仕組み

法案は税コードに新条文を追加し、BTC納税と準備金積立を一本化する。

狙いは「納税の決済手段」と「国家の保有戦略」を同時に設計する点だ。H.R.6180は内国歳入法(Internal Revenue Code)に6318条「Payment with Bitcoin」を追加し、連邦税と関連の加算税・罰金等をBitcoinで支払える権限を財務長官に与える。

受領したBitcoinは、納付の都度、財務省のStrategic Bitcoin Reserve(SBR)へ入る。税収として受け取ったBTCを一般会計に転換せず、そのまま国家の長期資産として積み立てる発想で、採否にかかわらず政策議論の軸を変える条文構成と言える。

提案者のWarren Davidson議員は、BTC納税を「金融システムの近代化」と位置付け、納税者の選択肢拡大と国家の資産多様化を同時に進める狙いを示した。政策目的は法案本文のFindingsにも織り込まれており、資産の希少性や地政学的中立性を強調している。

納税が成立する時点と評価レート

送金は財務長官指定アドレスへ不可逆送金し、所定の承認数で納付成立とみなす。

納付は、(1)納税者が財務長官指定のBitcoinアドレス、または指定金融機関(財務省の金融エージェント)の口座へBTCを移転し、(2)財務長官が定めるネットワーク承認数を満たした時点で成立する。承認数や移転証明のルールは、財務省が規則で定める余地を残した。

税額への充当額は、納付成立時点の公正市場価格(fair market value)で評価する。財務省は、外貨税務で公表される参照レートに近い考え方で、BTCの参照レートを設定・公表する設計であり、取引所選定や価格フィードの扱いが実務上の論点になる。

損益非認識とロット選択

納税に充てた分は原則として譲渡損益を認識せず、保有ロットの指定も認める。

現行の米国税務では、Bitcoinの支払い利用は原則「資産の処分」として譲渡損益が生じ得る。H.R.6180は、税負担の充当目的で政府へ移転したBTCについて、納税者側の損益を認識しない特例(nonrecognition)を置き、1001条上の売買として扱わない。

ただし非認識の対象は「税負担額を満たす部分」に限定される。納税額を超えて送付した分は処分として扱われるため、過払いや端数処理、複数ロット保有者の計算方法が制度設計の実務になる。

同条はロット選択も明示した。納税者はどのロットを移転したかを指定でき、具体的識別(specific identification)、FIFO、LIFO、HIFO等の方法を財務省が許容し得るため、税務申告のオペレーションにも影響する。

第三者金融機関の関与

財務省はBSA・OFAC要件を満たす金融機関を代理受領者として指定できる。

財務長官は、米国法の下で認可された規制対象金融機関と契約し、BTCの受領・保管、必要に応じた換金、送金を担う「金融エージェント」として指定できる。Bank Secrecy ActやOFAC要件への適合が明記されており、納税者利便とAML/CFTを両立させる設計思想が読み取れる。

背景:2025-03の大統領令と法制化競争

2025-03-06の大統領令は押収BTCをSBRに集約し、売却せず準備資産として扱う方針を示した。

大統領令(EO 14233)はStrategic Bitcoin Reserveと、Bitcoin以外の暗号資産を対象にしたUnited States Digital Asset Stockpileの創設を命じた。SBRは「政府が保有する最終没収済みBTC」を資本として集約し、原則として売却せず準備資産として維持する位置付けで、各省庁に保有分の棚卸しと移管の検討を求めた。

同大統領令は、追加取得についても「予算中立で納税者に追加負担を課さない」戦略の策定を財務長官と商務長官に求める一方、Stockpile(非BTC)の追加取得は、没収等を除き追加の行政・立法措置が必要としている。政府の暗号資産保有を「管理対象の国家資産」として整理する色彩が強い。

議会側でも、SBRを恒久化する動きが並走している。下院のH.R.2112(Reserve and Stockpile Act)は大統領令を法律として効力化するシンプルな構成で、上院のS.954(BITCOIN Act of 2025)は5年間で合計1,000,000 BTCを購入するプログラムを提案した。

H.R.6180はこの流れに「納税」という市場参加者主導の流入経路を追加する。政府が直接買い手になる案と比べ、納税者の任意選択を前提にする点が、政策手段としての性格を分ける。

市場・制度への影響

受領BTCが長期保有される設計は、政府の保有残高だけでなく税務・決済インフラにも波及し得る。

SBRは受領・取得から20年間、売却・交換・処分を原則禁止し、20年経過後も年1/20を上限に段階的処分のみ認める。結果として、税収として受領したBTCが長期で市場に戻りにくく、供給面の見通しや流通量評価に影響を与える可能性がある。

一方で、税の支払い手段としてBitcoinを制度に組み込むことは、納税者の会計・バックオフィスにも波及する。参照レートの選定、ネットワーク承認数、領収書や証憑の標準化など、IRSと財務省が整備すべき運用が増えるため、成立後の規則制定(regulations)とガイダンスの速度が重要になる。

政策面では、BPIが法案支持を表明し、BTC納税が準備資産の積み上げに与える効果を試算するモデルを公表した。支持・反対いずれの立場でも、議論が「理念」から「数値設計」に移る契機になり得る。

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論点とリスク(賛否の整理)

導入メリットと同時に、税務の境界条件・運用コスト・価格変動といった政策リスクの検証が不可欠だ。

税務面の焦点は、非認識の適用範囲と実務負担である。納税額を超えた送付分は課税上の処分として扱われ、ロット指定や評価レートの選択は、納税者側の記録管理の精度を要求する。

運用面では、カストディの堅牢性が不可欠となる。法案はコールドストレージ、マルチシグ、地理分散保管を例示するが、実装は財務省の裁量が大きく、監査・内部統制・事故対応の枠組みが問われる。

市場面では、Bitcoinの価格変動が政府バランスシートの評価に影響する。長期保有で短期ボラティリティを吸収する設計である一方、政治的な説明責任やリスク許容度が制度の持続性を左右し得る。

今後の注目点(時系列)

法案は2025-11-20に提出された段階で、成立には委員会審議と上下院可決、そして大統領署名が必要となる。

H.R.6180は下院で提出後、Ways and Means委員会とFinancial Services委員会に付託され、2025-12-17時点で共同提案者(cosponsors)は0人とされる。税法改正を伴うため、財政影響の試算や執行コストの議論が審議の出発点になる。

成立した場合の適用は「成立後の支払い」からで、実務は規則制定に依存する。参照レートの公表、承認数、証憑、金融エージェントの要件、年次報告のフォーマットなど、投資家が注視すべき論点は立法過程よりむしろ施行設計に多い。

▽ FAQ

Q. 法案はいつ、誰が提出した?
A. 2025-11-20、共和党のWarren Davidson議員がH.R.6180として提出しWays and Means等に付託。

Q. BTCで納税すると追加課税は起きる?
A. IRC6318(d)で納税額相当は損益非認識だが、FMVで超過分は1001条の処分扱いで、ロット指定(FIFO等)も想定。

Q. 政府は受領BTCを売却できる?
A. H.R.6180のSBR条項は受領・取得から20年間は売却等が原則不可で、20年後も年1/20以内の処分に限定し年次報告を義務化。

■ ニュース解説

米国がBTCを税の受領資産として位置付ける提案は、暗号資産を金融インフラに取り込む象徴的な一歩なので、規則制定の詳細が実効性を左右する。
一方で、法案は提出段階で、価格変動・運用コスト・AML対応の論点が残るため、市場は成立確度と設計変更を織り込みながら反応しやすい。
投資家の視点:投資家が見るべきは、法案成立よりも「施行設計」の具体化の速度と内容だ。参照レート、承認数、金融エージェントの要件、年次報告の透明性が整えば、BTCの制度的需要や保管ビジネスに対する期待と懸念が同時に高まる。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:Congress.gov,Congressman Warren Davidson,Bitcoin Policy Institute