ビットコイン4年周期説の終焉と新サイクル

▽ 要約

4年周期説から5年マクロサイクルへ移行し、2026年ピーク説が台頭
Raoul Pal氏は債務・流動性サイクルとISMに基づき5年周期を提示
ETFと機関マネーがボラティリティを抑え、ドローダウン構造を変化
投資家は半減期カレンダーより流動性・金利・資金フローを重視すべき局面

ビットコイン 4年周期に依存した相場観は弱まりつつあり、Raoul Pal氏らはグローバル流動性・ETF・金利サイクルを基軸とする5年前後の新サイクルへの移行を指摘しています。

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ビットコインには長らく「半減期を起点とした4年周期で強気・弱気が一巡する」という経験則があり、2013年・2017年・2021年のサイクルはおおむねそのパターンをなぞってきました。ところが、2024年4月の4回目の半減期から約1年半が経過した2025年末時点で、市場は史上最高値更新(10月に約12.6万ドル)後に約3割調整しつつも、典型的な大暴落には至っていません。こうした中で、Raoul Pal氏やGrayscaleなど複数の専門家が「ビットコインは4年周期から、より長く緩やかな5年前後のマクロサイクルへ移行している」と分析しており、本稿ではその論点とリスクを解説します。

ビットコイン4年周期説の再検証

ビットコインの歴史的サイクルと現在の値動きを比較し、4年周期説がどこまで当てはまり、どこから崩れ始めているのかを確認します。

過去3回のサイクルでは、半減期からおおよそ1年〜1年半後にピーク、その後は70〜80%規模の深いドローダウンを伴う弱気相場が約2年続くというパターンが繰り返されてきました。2013年・2017年・2021年のラリーはいずれも半減期後の供給ショックと個人投資家のFOMO(取り残され不安)を背景に、数百%〜数千%の上昇と急落を伴った典型的な「バブルと崩壊」でした。

一方、現在進行中の2024〜2026年サイクルでは、時間軸と値動きの質が明らかに変化しています。2024年4月の半減期以降、ビットコインは2025年10月に約12.6万ドルで史上最高値を付けた後、11〜12月にかけて約8.5〜9万ドルへ30%超の調整を経験しましたが、過去サイクルのような80%以上の急落には至っていません。日数ベースでも、2022年11月のボトムから現在までの経過日数は過去サイクルのピーク時期を既に上回りつつあり、「4年で完結するサイクル」の時間的想定はほころび始めています。

こうした変化を受け、GrayscaleやK33などのリサーチハウスは「半減期に起因する4年周期は供給サイクルとしては残るものの、価格サイクルはマクロ流動性・ETF・制度要因に主導権が移りつつある」と指摘します。サイクルの長さそのものだけでなく、「ピーク前に明確なバブル的パラボリックが出ていない」「ドローダウンが30%前後で抑えられている」といった構造面の違いも、4年周期説の説得力を弱めている要因です。

マクロ流動性と債務拡大がもたらすサイクル延長

世界の債務構造と流動性サイクルが変質し、それにビットコイン価格も同期することで、4年から5年前後へのサイクル延長が生じているとの見方が強まっています。

Raoul Pal氏の「5年サイクル」仮説

Pal氏は、ビットコインの伝統的な4年リズムは既に「5年サイクル」に置き換わりつつあると主張し、その背景として政府債務の平均償還期間が4年から5年超へ延長された点を挙げます。同氏によれば、各国政府は高水準の債務残高を維持するために恒常的な流動性供給を必要とし、そのペースが「約5.4年周期のサインカーブ」として景気と金融市場に表れるとされます。

Pal氏は自身のGMI(Global Macro Investor)による総流動性指数とビットコイン価格を重ね合わせ、価格変動の約9割はこの流動性要因で説明できると分析します。2021〜2022年にかけて金利が急上昇したことで流動性サイクルの底打ちが遅れた結果、今回のビットコインサイクルも従来より約1年後ろ倒しとなり、次のピークは2026年Q2前後に位置すると見るのが同氏の基本シナリオです。

ISM指数・景気サイクルとの連動

Pal氏とGMIのBittel氏は、米ISM製造業景況指数とビットコインの相関にも注目しています。彼らのフレームワークでは、金融環境→流動性→ISM→企業利益・ハイベータ資産(小型株・新興国・ビットコイン)の順に波が伝播し、ISMが50を超えて拡大局面に入ると、ハイベータ資産がレバレッジをかけたように動きやすくなります。

実際、過去のサイクルではISMが高水準にある局面でビットコインがサイクルトップを付けたケースが多く、現在もISMの底打ち後の回復タイミングが2026年にずれ込むとの予測が、ビットコインピークの「26年説」を後押ししています。

流動性主導の30%調整とサイクルの「伸び」

2025年10月の史上最高値からの約30%の下落は、見方によっては天井シグナルとも受け取れますが、Grayscaleは最新レポートで「2010年以降の平均的な強気相場中の調整幅と整合的であり、深い弱気相場の始まりとは言い難い」と指摘します。同社は今回のサイクルでは、2021年のような過度なパラボリック上昇がまだ観測されていない点や、ETF・デジタル資産トレジャリー経由の機関資金という新たな需給構造を背景に、「4年ごとにピーク後大崩れする」という単純なパターンからの離脱を強調しています。

ETF資金フローと市場構造の変化

現物ビットコインETFの普及により、ビットコイン市場は個人投機中心の高ボラ市場から、機関マネーを含むより厚みのある市場へと変貌しつつあります。

スポットETFが握るBTCシェア

米国では2024年1月のスポットETF解禁以降、IBITやFBTCなどを中心に巨額の資金が流入し、2025年11月末時点ではビットコインスポットETFの純資産が約1,190億ドル、BTC時価総額の約6.1%に相当する水準に達しています。11月は価格急落に伴い月間約34.8億ドルの純流出となったものの、依然として「ETF経由で間接保有されるBTC」というストックは大きく、長期的な買い圧力として機能しています。

ETFに流入するのは年金基金やファミリーオフィスなどの長期マネーが中心であり、4年サイクルに合わせて一斉に売却する性格の資金ではありません。結果として、需給が「短期の熱狂と総崩れ」から、「長期の漸進的な積み上がりと複数回の中間調整」へと変わり、サイクル全体が引き伸ばされる方向に働いていると考えられます。

ボラティリティは「急落」から「深めの押し目」へ

過去にはピークから80〜90%のドローダウンが常態化していましたが、統計的に見ると強気相場中には25〜30%程度の「ブル相場調整」が年に数回発生してきました。今回の約30%下落も、このレンジに収まる動きであり、ETFを通じた機関投資家の存在が「一気の崩壊」を抑制しつつ、押し目での買い需要を支えていると見る向きが多い状況です。

Grayscaleは、今回のサイクルではまだ2017年や2021年のような吹き上がり型のバブル・トップが出現していない点を根拠に、「4年ごとに大天井→長期冬の時代」という従来のサイクル像は当てはまらず、むしろボラティリティを伴う長期上昇トレンドの一局面と位置付けています。

マルチサイクル化する暗号資産市場

ビットコインがマクロ資産として5年前後の大きな波を描く一方、その周辺ではミームコイン、AI関連トークン、プライバシー通貨などが1〜3カ月単位のミニバブルと冷却を繰り返しており、市場全体は「単一の4年周期」ではなく「複数サイクルの重ね合わせ」として捉える必要が高まっています。Grayscaleが指摘するように、2025年11月にはZcashやMonero、Decredといったプライバシー通貨がビットコインを上回るパフォーマンスを示しており、セグメントごとに異なるミニサイクルが走っている状況です。こうしたマルチサイクル構造も、ビットコイン単体の4年周期神話を相対化する要因となっています。

関連:ビットコイン4年周期は崩壊か:ヘイズ論

パラボリック上昇シナリオと想定リスク

多くの専門家は、現在の緩やかな上昇トレンドの先に「最終局面のパラボリック(放物線的)上昇」が訪れる可能性を指摘する一方、その道のりには大きな調整とマクロ要因の不確実性が伴うと警鐘も鳴らしています。

2026年ピーク・シナリオと流動性の再膨張

Pal氏の枠組みでは、債務ロールオーバーと金利低下を通じて2026年にかけて世界の流動性が再膨張し、そのピーク付近でビットコインも新たな史上最高値圏に達する可能性があります。Grayscaleも、2025年末の30%調整を「強気相場中の通常のドローダウン」と位置付けた上で、2026年にかけて新高値を付けるシナリオを提示しており、4年周期より長い視野での強気継続を示唆しています。加えて、JPMorganなど一部の伝統金融機関も、現在の約9万ドル前後から6〜12カ月で17万ドル水準まで上昇しうるとのモデル試算を示しており、強気側のコンセンサスは2026年前後の高値更新に向きつつあります。

ローカルトップとレバレッジの巻き戻しリスク

もっとも、パラボリック上昇へ至るまでには複数回の「ローカルトップ」と調整局面が挟まれると見るのが現実的です。2025年10月の約12.6万ドルからの下落局面では、11〜12月にかけて30〜36%のドローダウンとともにレバレッジ・ポジションの大量清算が発生し、1日で数十億ドル規模の強制ロスカットが観測されています。

このような「中間反落」は強気相場中にも複数回起こり得るため、Pal氏が言うような2026年ピーク・シナリオを前提とする場合であっても、途中のローカルトップで過度なレバレッジを抱えることは大きなリスクとなります。

マクロ・規制ショックによるシナリオ崩れ

さらに、金融政策や規制動向が想定よりタイトな方向に振れた場合、パラボリック上昇そのものが実現しない可能性も無視できません。2025年11月には、FRBの追加利下げ観測の後退とともに、米スポットビットコインETFから月間34.8億ドルの純流出が発生し、ビットコイン価格の急落と連動しました。主要国での規制強化や、特定ETF・取引所に関する信用不安なども、流動性の急激な収縮とサイクルの早期打ち切り要因となり得る点には注意が必要です。

今後注目すべき指標と投資家の視点

4年周期カレンダーに頼るのではなく、マクロ指標・資金フロー・オンチェーンデータ・センチメント指標を多面的に組み合わせてサイクルを把握することが、今後のビットコイン投資では重要になってきます。

流動性・金利・景気指標

Pal氏やGrayscaleが強調するように、グローバル流動性(各国中銀バランスシートやマネーサプライ)、政策金利、ISM・PMIといった景気指標は、ビットコインにとっても主要なドライバーとなっています。今後の局面では、FRBの利下げ開始タイミングや量的緩和(QE)再開の有無、インフレ再燃による利上げ再開リスクなどが、2026年までのサイクル持続性を左右する重要な分岐点となるでしょう。

ETF・オンチェーンの資金フロー

ETFの週次・月次フローは、機関マネーのリスク選好度合いを測るうえで有力な高頻度指標です。2025年11月のように、価格下落と同時にETFからの資金流出が加速する局面では、調整が長期化しやすい一方、流出が一巡し再び純流入に転じれば、次の上昇フェーズへの移行サインとなり得ます。

オンチェーンでは、大口アドレス(いわゆるクジラ)の蓄積・分配行動や、長期保有コインの移動(CDD指標)などが注目されます。Grayscaleは、2022年のボトム以降、複数回の調整局面で長期保有者が買い増しに動いてきた点を指摘しており、今後もクジラがネット買いを維持するかどうかは、サイクルが「延命」するのか「失速」するのかを見極めるうえで重要な手掛かりになります。

センチメント指標と「周期信仰」からの脱却

恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)や先物オープンインタレストは、短期的な行き過ぎを測るための有用な補助指標です。2025年秋のように、価格が高値圏にある中でレバレッジ残高やオプションのコール偏重が極端に膨らんだ局面は、過去統計上、その後の調整入りと重なるケースが少なくありません。

ただし、こうした短期指標を読む際にも「今が4年サイクルの何合目か」という単純な枠組みに当てはめるのではなく、ETFフローやマクロ環境と組み合わせて相対的に評価する姿勢が求められます。4年周期説はあくまで過去データから抽出された経験則に過ぎず、市場参加者の行動と制度環境が変われば、その有効性も変わり得るためです。

▽ FAQ

Q. ビットコインの4年周期説は本当に崩れたのですか?
A. GrayscaleやPal氏は、2025年の約30%調整でも強気継続とし、2026年に新高値到達の可能性を示して4年周期説に疑義を呈しています。

Q. なぜRaoul Pal氏は2026年ピークを予測しているのですか?
A. Pal氏は平均債務償還5年化とISM回復を根拠に、流動性サイクルの頂点が2026年頃に到来し、ビットコインも同時期にピークを迎えると分析しています。

Q. ETFはビットコイン価格サイクルにどんな影響を与えていますか?
A. 米スポットETFは2025年11月末に約1,190億ドル分のBTC(時価総額の約6.1%)を保有し、長期マネーがサイクルを長期化させボラティリティ緩和に寄与しています。

Q. 2025年10月高値からの30%下落は弱気相場入りですか?
A. 10月の約12.6万ドルから9万ドル割れまでの30%超下落について、Grayscaleは歴史的平均と同程度の「ブル相場調整」であり長期弱気入りとは見ていません。

■ ニュース解説

ビットコイン市場では、半減期に連動した4年周期よりも、ETF資金フローやマクロ流動性の波が価格を主導する度合いが高まりつつあるため、サイクルの長さと形状が変容していると評価されています。Raoul Pal氏は、政府債務の償還構造とISMなどの景気指標に基づきビットコインを約5年のマクロサイクル資産と位置付け、次のピークが2026年にずれ込むシナリオを提示し、Grayscaleも2026年の新高値可能性を前提に4年周期説の有効性低下を指摘しています。

一方で、2025年10月高値からの30%超の下落やETFからの月間30億ドル超の資金流出が示すように、強気相場中でも流動性ギャップとレバレッジの巻き戻しによる大きな調整は避けられません。また、マクロ環境が想定よりタイトな方向に振れた場合や規制ショックが発生した場合には、パラボリック上昇シナリオそのものが実現しないリスクも残ります。

投資家の視点:
今後のビットコイン投資を検討する際には、「何年に一度の半減期か」といったカレンダー要因だけでなく、①FRBをはじめとする主要中銀の金利・バランスシート動向、②米スポットETFのフローと保有残高、③オンチェーンでのクジラや長期保有者の行動、④恐怖・強欲指数や先物建玉などのセンチメント指標といった複数のデータを組み合わせてサイクルを評価することが重要です。その上で、価格の短期変動よりも、自身のリスク許容度・投資期間・ポートフォリオ全体における暗号資産の位置付けを明確にし、レバレッジや集中投資に伴う下振れリスクを十分に認識しておくことが、中長期の資産形成を考えるうえで現実的なアプローチと言えるでしょう。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:Grayscale,CoinEdition,CryptoRank