12月7日トム・リー30万ドル予想と中国規制

▽ 要約

市況:BTC現物ETFは+5,478万ドル流入も、ETH現物ETFは7,520万ドル流出でリスク選好に濃淡。
規制:中国はステーブルコインを含む暗号資産取引を再び違法と確認し、マネロン訴追3,032人を公表。
テーマ:トム・リーが2026年のビットコイン30万ドルと代幣化スーパーサイクルを主張。
マクロ:12月FOMC利下げ観測強まり、Coinbaseは12月の市場復調入りを予想。

12月7日の暗号資産市場は、ビットコイン現物ETFへの資金流入とイーサリアム現物ETFからの資金流出が対照的となる一方、トム・リーの代幣化強気論と中国の規制強化、12月FOMC利下げ観測を材料に、中長期のシナリオと足元フローのギャップが意識される局面です。

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読者の多くは「ビットコイン30万ドル」という強気予想が現実味を帯びているのか、中国の厳格な規制やETFフローとどう整合するのかを知りたいはずです。本稿では、トム・リーの代幣化シナリオ、中国当局の最新スタンス、ビットコイン・イーサリアム現物ETFの資金動向、12月FOMCを巡るマクロ環境を整理し、12月7日時点での暗号資産の立ち位置を俯瞰します。記事を通じて、短期の価格変動に振り回されず、中長期シナリオとリスク要因を投資判断の前提として把握することを目指し解説します。

市況総括:ETFフローとマクロが示す温度差

12月初旬の暗号資産市況は、ビットコイン現物ETFの資金流入とイーサリアム現物ETFの資金流出、そして12月FOMC利下げ観測の高まりが交錯し、プロダクトごとの温度差が鮮明になっています。

2025-12-05(美東)のビットコイン現物ETFは合計+5,478.96万ドルの資金流入となり、依然としてスポットETFが主要な資金導線であることが確認されました。流入の主役はARKB(+4,279.38万ドル)とFBTC(+2,728.84万ドル)で、IBITのみが▲3,249.28万ドルと単独流出となっています。全体の純資産残高は1,171.09億ドルで、ビットコイン時価総額の約6.57%を占め、累計純流入額は576.17億ドルに達しています。

一方、同日のイーサリアム現物ETFは合計▲7,520.65万ドルの純流出となり、9本すべてが流出で終えた点が象徴的です。流出のほぼ全額はベライダーのETHA(▲7,520.65万ドル)によるもので、にもかかわらずETHAの累計純流入は130.91億ドルと依然巨大です。ETH現物ETF全体の純資産は189.36億ドルで、イーサリアム時価総額に対する比率は約5.19%、累計純流入128.79億ドルと、構造的な需要自体は維持されています。

マクロ環境面では、12月FOMCを前に米国のPCEや雇用関連指標が概ね減速を示し、金利先物市場では2026年末までの利下げ累計幅が市場予想ベースで63bp程度と織り込まれています。12月第2週には、FOMC政策金利・経済見通し、パウエル議長会見、週間失業保険申請件数など、リスク資産にとって重要なイベントが集中しています。

Coinbase Institutionalは12月6日のノートで、
①市場流動性の改善、
②いわゆる「AIバブル」がまだ崩壊局面に入っていないこと、
③現行水準でのドル売り・リスク資産買いが相対的に魅力的であることを理由に、11月を「軟調局面」、12月を「復調の起点」と位置付けています。CME等に基づく12月利下げ確率は92%まで上昇しており、金利・流動性面では追い風が強まっています。

一方で、実体経済側ではAIデータセンター需要などを背景にメモリ価格が6倍、SSD価格が2倍と急騰し、米PCショップCyberPowerPCが2025-12-07からBTO PCの値上げに踏み切ると公表するなど、ハードウェアコストのインフレも可視化しています。これはマイニングやノード運営コスト、さらに広くはテック全体の資本コストに影響し得る要素として押さえておくべきポイントです。

規制・政策アップデート:中国の「防火壁」と慎重姿勢

2025年末にかけての中国当局のスタンスは、ステーブルコインと暗号資産取引を「徹底して抑え込む」方向性を改めて明示しつつ、デジタル人民元と既存決済インフラの強みを生かす戦略への集中という色彩を一段と強めています。

中国銀行元副行長の王永利氏は「中国为何坚决叫停稳定币?」で、ドル建てステーブルコインが法定通貨担保型市場の時価総額・出来高の99%超を占める現状を踏まえ、非ドル建てステーブルコインの国際展開余地は限定的であり、人民元ステーブルコインに戦略的優位はないと指摘しました。そのうえで、米国のステーブルコイン立法はドル需要増加と国債消化を目的とした「自国優先」の枠組みであり、他国が追随すればドル金融圏への従属度が高まり得ると警鐘を鳴らしています。

王氏はさらに、7月18日に施行された米国のステーブルコイン法制が、厳格な準備資産要件やKYC/AML義務を課す一方で、価格変動を伴う国債を準備に含めることから、新たな価格リスクや発行体間の裁定機会を生む可能性も指摘しています。結果として、銀行が預金通証化(デポジット・トークン)やRWAトークンを通じてチェーン上決済を担うようになれば、非銀行系ステーブルコイン発行体はビジネスモデルそのものが揺らぐ、いわば「規制のブーメラン」が想定されると分析しています。

国内の取締り状況については、財新が「筑牢虚拟货币防火墙守护公众钱袋子」で、2024年に「仮想通貨」を用いたマネーロンダリング関連の刑事事件で3,032人が起訴されたと報じています。同記事では、被告の多くが社会的・経済的地位の低い若年層であり、283件の判決文分析から、初・中卒レベルの学歴層に集中している構造的問題が指摘されています。

2025-11-28には人民銀行を含む13部門が協調会合を開き、「仮想通貨取引投機の抑制」を再確認するとともに、ステーブルコインも仮想通貨の一形態として禁止対象であることを明示しました。これにより、国内で人民元ステーブルコインを解禁し、暗号資産取引も段階的に容認するとの観測はほぼ後退しています。

さらに、中国証監会の呉清主席は2025-12-05の証券業協会総会で、信用・流動性・コンプライアンスに関する重点リスクに警戒を促し、「加密资产等新业态」については「深く研究し慎重に対処すべきで、見通せず管理できないビジネスは展開しない」と述べています。これは株式・デリバティブ・資産運用の枠内においても、暗号資産関連ビジネスを安易に取り込むことには慎重であるというメッセージと解釈できます。

このように、中国はデジタル人民元と既存モバイル決済の優位を活かしつつ、暗号資産取引そのものには「ファイアウォール」を構築する路線を明確にしており、トム・リーが描く「全資産の代幣化」とは対照的な政策姿勢です。

企業・プロジェクト動向:PIPPINとETF・企業戦略

マイクロレベルのフローでは、ミーム性の高い個別トークンやETFの発行主体ごとの戦略に投資家の視線が集まっています。

オンチェーン分析アカウントOnchain Schoolによれば、ミーム系トークンPIPPINは直近24時間で80%超上昇し、その前後で2つのアドレスが積極的に買い増しを行いました。PANewsによると、HWBDGGウォレットは約447万ドル相当、DywiW8ウォレットは約63.6万ドル相当のPIPPINを保有しており、合計で150万ドル相当をこの1日で新規購入しています。こうした集中保有は短期の価格押し上げ要因となる一方、流動性低下局面での下落リスクも高めるため、個別トークン投資ではオンチェーンの分布確認が一層重要になっています。

ビットコイン現物ETF市場では、12月5日の一日だけを見ればIBITが単日最大の流出となりましたが、累計では依然として+625.17億ドルと圧倒的な純流入残高を維持しています。これに対し、ARKBやFBTCなど、よりアクティブな投資家層を抱えるETFが短期フローの中心となりつつあり、各ETF間での差別化が意識される局面です。

企業価値の観点では、SpaceXが時価総額8,000億ドル(約124兆円)のバリュエーションで未公開株のセカンダリー販売を開始し、OpenAIを上回る世界最大の未上場企業となると報じられました。リスク資産全体に対する長期的な関心が根強い一方で、暗号資産マネタイズとは別ルートの「巨大テック」の評価が上昇していることは、資金配分の観点からも押さえておく必要があります。

マイケル・セイラー氏の発言として共有された要旨では、「ストラテジー(MicroStrategy)の株価が保有ビットコインの価値に対して割高なときは株を発行し、割安なときはビットコイン側を動かす」といった、コーポレート・トレジャリーとエクイティ市場を組み合わせた戦略が引用されています。これは、企業がバランスシート上のビットコイン保有と株式発行のバランスを通じて「レバレッジ付きビットコイン・プレー」を実現する一例であり、投資家側もETF・現物・株式を横断的に見比べる必要性が増していると言えます。

イベント:トム・リーの「代幣化」スーパーサイクル仮説

12月4日のバイナンス・ブロックチェーンウィークで、Fundstrat共同創業者でBitMine会長のトム・リー氏が行った講演は、2026年までの価格シナリオだけでなく、次の10年を「代幣化の時代」と位置付けた点で注目されます。

同氏は、過去10年のパフォーマンス比較として、S&P500が約3倍、金が約4倍、NVIDIAが約65倍であるのに対し、ビットコインは約112倍、イーサリアムは約500倍のトータルリターンだったと振り返りました。そのうえで、2025年以降の「黄金時代」はまだ終わっておらず、むしろこれからが本番だと強調しています。

価格シナリオについては、①2026年初頭にビットコインが過去最高値を更新し、②2026年末には約30万ドル水準に到達し得る、③イーサリアムは2025年末〜2026年に2万ドル超を付ける可能性がある、というかなり野心的な予測を提示しました。背景には、ETF・マクロ・制度環境・採用度合いなど、従来の「4年周期」では説明しきれないファクターが重なっているという認識があります。

2025年のコア・ストーリーとして同氏が挙げたのが「代幣化(トークナイゼーション)」であり、特にステーブルコインを「イーサリアムのChatGPTモーメント」と表現している点が象徴的です。安定通貨をきっかけに、株式・社債・不動産・サブスクリプション収益など、あらゆるキャッシュフローやリスク要因をトークン化し得るとし、その市場規模を「数千万億ドル」に達し得ると試算しています。

さらにトム・リー氏は、テスラを例に「時間」「製品ライン」「地域市場」「サブスクリプション収益」「創業者プレミアム」といった要素ごとに分解し、それぞれを別々のトークンとして取引可能にする「因子化」のイメージを提示しました。こうした分解は、リスク・リターンの細分化だけでなく、特定テーマへの集中投資ニーズにも応えうる構造であり、伝統的なエクイティ市場では取り扱いが難しかった投資機会を提供し得ます。

技術・インフラの面では、イーサリアムがRWAトークンやJPMコインなど、主要なトークナイゼーション案件の大半をホストしている現状を踏まえ、「イーサリアムはスマートコントラクト戦争に勝利した」との認識を示しています。PoSチェーンとしてのイーサリアムを中心に、StrategyやBitMineのような「イーサリアム財庫企業」がトラディショナル金融とDeFiの橋渡し役となり、ネットワーク価値をプロトコル層に集約する「Fat Protocol」仮説が再確認された格好です。

一方で、リー氏自身も「投資の80%はマクロが決める」と述べており、FOMCの利下げパスや規制動向次第では、強気シナリオが大きく揺らぎ得る点を繰り返し強調しています。価格の復調局面入りは、10月10日前後のレバレッジ解消が一巡するタイミングと重なる可能性が高いとの見立てですが、その過程はボラティリティを伴うものと位置付けられています。

関連:ビットコイントレジャリーTOP100:12月版(12/6)

▽ FAQ

Q. トム・リーのビットコイン30万ドル予想はいつ・どの場で示されたか?
A. 2025-12-04のバイナンス・ブロックチェーンウィーク講演で、2026年初に最高値更新、2026年末に30万ドル到達の可能性を示しました。

Q. 2025-12-05時点でビットコイン現物ETFの市場規模はどの程度か?
A. 美東時間2025-12-05時点で純資産総額は1,171.09億ドル、ビットコイン時価総額の約6.57%を占め、累計純流入は576.17億ドルとなっています。

Q. イーサリアム現物ETFは直近どのような資金フローとなっているか?
A. 2025-12-05は合計▲7,520.65万ドルの純流出で、ベライダーETHAが同額流出しつつも、ETH現物ETF全体の純資産は189.36億ドル、累計純流入は128.79億ドルでした。

Q. 中国では暗号資産関連のマネロン事件はどの程度発生しているか?
A. 財新の報道によると2024年に「仮想通貨」を使ったマネロン関連事件で3,032人が起訴され、若年層かつ初・中卒レベルの被告が多いと分析されています。

Q. Coinbaseは12月の暗号資産市場についてどのような見通しを示しているか?
A. Coinbase Institutionalは2025-12-06時点で、流動性改善とFOMC利下げ確率92%を背景に、11月調整・12月反発というシナリオで12月を市場復調の起点と位置付けています。

■ ニュース解説

トム・リーの30万ドル予想と代幣化シナリオは、ETFフローやマクロ環境の追い風を前提にした中長期ビジョンである一方、中国のように暗号資産取引を制度的に遮断しようとする大国も存在するため、グローバルな採用曲線は地域ごとの政策差によって大きくばらつく可能性があります。ETFや企業株、個別トークンへの資金流入・流出は、こうした政策差とマクロ環境の組み合わせを最も敏感に映し出す「結果」として捉えるのが妥当でしょう。

投資家の視点:
短期的には、ビットコイン・イーサリアム現物ETFのフローやFOMCの結果、メモリ価格高騰などのマクロ・ミクロ要因がボラティリティを左右しますが、中長期では①どの地域でどの程度トークナイゼーションが許容されるか、②トラディショナル金融がどの程度オンチェーン移行するか、③規制リスクとコンプライアンスコストを投資リターンが上回り得るか、といった構造要因が重要になります。特定銘柄や予測値そのものに依拠するのではなく、政策・マクロ・技術・フローを組み合わせて複眼的にリスクとリターンを評価し、自身のリスク許容度と投資期間に整合的なエクスポージャーサイズとプロダクト選択を検討することが、全般的な考え方として有用です。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:财新,王永利