▽ 要約
概要:ジャック・ドーシーが開発、iOS版公開。
チェーン:BLEで7跳中継、12時間の蓄積転送。
ビットコイン:署名済取引搬送、接続時に放流。
状況:試験版満員→2025/7/28にApp Store公開。
検閲や障害に強い通信が要るのか——その答えとしてBitChat オフラインメッセージングは、インターネット不要のBLEメッシュで近接端末を結び、7ホップの中継とストア&フォワードで通信の可用性を確保する。実験作から一気に注目を集めた背景と実像、そして限界と展望を解説する。
BitChatの基本仕様と設計思想
インターネット不要の近接メッシュで検閲耐性と可用性を確保するため、BitChatはBLEのTTL7ホップと蓄積転送を採用した。
iPhone/iPad/AppleシリコンMacで動作するユニバーサルアプリとして公開され、中央サーバもアカウント登録も不要の完全分散設計を取る。端末起動ごとに短命の匿名IDが生成され、履歴は端末メモリにのみ保存され一定時間や配送完了で自動消去される。緊急時はロゴを「トリプルタップ」で即時ワイプでき、耐検閲・低痕跡の思想が貫かれる。
暗号は現行ビルドでNoise Protocolベースに移行しており、初期ホワイトペーパーで示されたX25519+AES‑GCM系の前提を包含しつつ、鍵合意やメッセージ保護のモデルを整理している。メタデータも暗号化され、中継ノードからは送受の当事者が判別できない。UIはIRC風で、/msgや/whoなどのコマンドが使える。
ネット不要通信の実現手段(P2Pメッシュ)
Bluetooth Low Energyの見通し距離を基礎に、端末が近接発見・自律接続するため、ユーザー移動に伴ってネットワークは動的に広がる。
各端末はクライアント兼リレーとして機能し、届かない相手へは最大7回のホップで“バケツリレー”転送される。相手が一時的に離脱しても、中継ノードがメモリ上に最大12時間キャッシュして復帰時に配送できる。チャネルは「#」で識別される公開ルームに加え、パスワード保護ルームや個別DMも備える。
操作感(IRCの“vibes”)
基本は1行コマンドで、ルーム参加、DM送信、ユーザー探索などを軽快に行える。メッシュ下では配送はベストエフォートで、既読やACKは実装途上だ。
Bitcoinトランザクションの搬送と境界条件
署名済み取引を暗号メッセージとして運ぶため、完全オフラインでも準備は進むが、確定には誰かのオンライン到達が要る。
BitChat自体はウォレットではなく、外部ウォレットで作成・署名した送金データ(TX)をE2E暗号メッセージの形で搬送する“伝書鳩”だ。メッシュ内を流れる間は暗号データに過ぎず、いずれかの端末がインターネットに復帰した時点で初めてビットコインネットワークへブロードキャストされる。配送はベストエフォートで、誰もオンラインにならなければ未公開TXのまま残る。将来的な拡張としてLightning(Zap)やNostr連携を視野に入れる報道もあるが、実装は段階的である。
セキュリティ設計と残るリスク
E2EEとメタデータ秘匿で傍受耐性を高める一方で、外部レビュー前の個別DMは利用を控えるべきだと開発側が注意喚起した。
暗号・鍵交換はNoiseベースで更新され、ダミーパケット混入でトラフィック解析耐性も強化されている。とはいえ、リレー密集環境でのスパム/輻輳、Bluetooth層のジャミング、ACK未実装に伴う配送不確実性など、運用上の制約は残る。初期にはなりすましリスクの指摘もあり、公開チャット中心の利用を前提に安定化が進む段階だ。
開発状況・対応環境・直近アップデート
2025年7月7日のTestFlight開始が即満員となったため、7月28日にiOS版がApp Store公開となり、8月はAndroid APK更新やロケーションチャット試験が続いた。
対応はiOS/macOS(Appleシリコン)/visionOSに広がる。Androidは公式ストア配信ではなく、GitHubのAPKをサイドロードする方式が主流だ。公開直後には「iOS版がAndroidに接続できない不具合」が確認され修正版が提出された。Google Playでは偽アプリが多数見つかり、公式は「まだPlayには出ていないため要注意」と注意喚起した。8月下旬にはGeoHashを用いた「ロケーションチャット」のテスト導入が示され、同エリア内の端末と一時的ルームを自動形成する構想が共有された。
想定ユースケース(災害・イベント・検閲下)
基地局障害や遮断時の最低限通信を確保できるため、被災地連絡、フェスやデモの現場連絡、検閲下でのローカル共有などに適する。
中継密度に通信可能性が依存するため人口希薄地では成立しにくいが、都市部やイベント会場では“人の流れに沿って”通信範囲が自然拡大する。断続的に外部ネットへ到達する端末が現れれば、メッシュ全体の配送が同期される“チェックポイント”運用も可能だ。
限界とロードマップ
距離・密度・干渉に制約があるため、当面は日常メッセンジャーの代替ではなく、非常時補助ツールとして価値が高い。
Bluetoothの到達距離とスループットは本質的制約であり、輻輳回避やスパム耐性、配送確認などの改善が鍵となる。開発側はWi‑Fi Direct対応や電力消費最適化、プロトコルの堅牢化を示唆しており、短期での実用度向上が期待される。
▽ FAQ
Q. BitChatはいつ一般公開された?
A. iOS版は2025-07-28公開、7/7開始のTestFlightは1万枠が数時間で満了。
Q. 暗号とプロトコルは?
A. 初期WPはX25519+AES‑GCM、現行はNoise Protocol採用とGitHub記載(1.3.1時点)。
Q. 完全オフライン送金は可能?
A. 最大7ホップ・12時間保管で署名済TX搬送、最終確定はネット到達後の放流。
Q. 対応環境は?
A. App Store版はiOS16+/macOS13+/visionOS、AndroidはGitHub APKを手動導入。
Q. 規制やプラットフォーム課題は?
A. Google Playで偽アプリ数千DL報告、Apple課金規約とLightning機能の衝突懸念。
■ ニュース解説
TestFlight満員とApp Store公開が短期間に進んだため話題化が加速し、一方で偽アプリ出現やACK未実装など運用・安全面の課題も浮き彫りとなった。
事実:2025/7/7にβ開始、10,000枠が即満了、7/28にiOS公開。背景:BLEメッシュとストア&フォワードで“オフグリッド通信”を志向。影響:災害・検閲耐性の期待が高まる一方、密度依存・偽アプリ・暗号レビュー不足への警戒が必要。
投資家の視点:短期はリスク(規制・プラットフォーム方針・セキュリティ検証)を注視しつつ、Wi‑Fi Direct対応やエコシステム(Nostr/Lightning)接続が実装進展のカタリスト。周辺では端末密度の高い市場・イベント運営・防災領域に補助通信としてのPoC機会がある。
本稿は投資助言ではありません。
(参考:GitHub,App Store,X(@jack))