イギリス暗号資産情報提供義務、2026年開始へ

要約

ターゲット範囲:取引所・NFT 市場・ウォレット等ほぼ全サービスが対象
取得情報:氏名・住所・納税者番号などをユーザー単位で HMRC へ報告
税務目的:脱税防止で 2030 年までに 3.15 億ポンド増収見込み
他国動向:EU・米国も 2025〜26 年に類似制度、世界的に CARF へ収束
影 響:プライバシー後退と compliance コスト増、一方で市場信頼性向上

– なぜ「イギリス暗号資産情報提供義務」が注目されるのか

英国暗号資産情報提供義務は、2026 年1 月に始まる世界初の本格的 CARF 運用である。読者が抱く「どこまで開示されるのか」という疑問に対し、本記事は制度の全貌と日本との違いを明快に示す。読むことで、投資家・事業者ともに備えるべき具体策がわかる。

制度のしくみと報告内容

2026 年以降、暗号資産サービス提供者はユーザー情報と年間取引サマリーを HMRC へ提出する。

サービス提供者の定義

  • 取引所、カストディ、貸借・レンディング、NFT マーケット、決済ゲートウェイ
  • 英国籍でなくても「英国ユーザー」にサービスすれば対象

ユーザーが提出する 5 項目

  1. 氏名
  2. 生年月日
  3. 住所
  4. 居住国
  5. 納税者識別番号(TIN/NI/UTR)

タイムライン

年月主なイベント
2026 年1 月ユーザーデータ取得開始
2027 年5 月2026 年取引分を HMRC 初回提出
以降毎年5 月末までに前年分を提出

税務・規制当局の狙い

制度は脱税抑止と国際協調が目的で、新税ではない(出典:HMRC プレスリリース)。

  • 2030 年までに 3.15 億ポンドの追加税収を試算
  • OECD CARF を国内法化し、G20 の要請に応える
  • 銀行口座の CRS に続く「暗号資産版 CRS」的役割

罰則とコンプライアンス負担

提出拒否は最大 £300、事業者はユーザー 1 名につき同額(出典:HMRC ガイダンス)。

  • 低額でも累積罰金は重い
  • 報告遅延・虚偽は追加ペナルティ
  • 取引所は KYC/報告システム改修コストが増加

対象範囲の広さと例外

中央集権サービスを網羅、純粋 P2P/真の DEX は現行枠外。

  • NFT、市場、ステーブルコイン、ステーキング報酬も報告対象
  • 完全非託管 DEX は「報告主体不在」で対象外
  • 当局は将来の追加規制を示唆

他国の動向と比較

EU は DAC8、米国は 1099‑DA で 2025~26 年に発効。各国とも CARF で合流へ。

地域発効特徴
EU2026/01DAC8、ステーキング・NFT も含む
米国2025/011099‑DA、非託管 DEX は対象外
シンガポール2028 予定キャピタルゲイン非課税だが CARF 参加
日本2026/01まず非居住者取引を自動報告

ユーザー・事業者への実務影響

ユーザー

  • 全プラットフォームで TIN 提出、匿名性は大幅縮小
  • 申告漏れ防止で手続きは簡素化
  • データ共有に伴うプライバシー懸念

事業者

  • KYC 強化と XML 報告フォーマット実装が急務
  • コスト増 ➜ 小規模業者の撤退・統合加速
  • FCA 認可基準も併せて厳格化

市場全体

  • 透明性向上で機関投資家の参入促進
  • 規制過多なら P2P/DEX へ資金流出も懸念
  • 「規制の成熟期」へ移行

日本との違い

イギリスは国内外ユーザーを網羅、日本は当面非居住者のみ。課税率も英国 20%、日本最大 55%で乖離。

  • 報告対象:英国=全ユーザー、日本=非居住者
  • 課税方式:英国=キャピタルゲイン、日本=総合課税
  • 罰則:英国=£300 定額、日本=既存税法に基づき個別重課

FAQ

Q. 2026 年から報告が必要になる情報は?
A. 氏名・生年月日・住所・居住国・納税者番号など、個人・法人別に規定。

Q. 情報を提出しないとどうなる?
A. ユーザー・事業者とも最大 300 ポンドの罰金、悪質なら追加制裁。

Q. 日本のルールと何が違う?
A. 日本はまず非居住者のみ自動報告、課税方法も総合課税で最大 55%。

■ ニュース解説

イギリスが 2026 年から導入する暗号資産情報提供義務は、OECD CARF を世界で初めて実装する大型制度である。EU・米国も同時期に発効するため、暗号資産取引は 2026 年を境に「当局へ自動的に可視化」される環境に入る。プライバシー後退は否めないが、長期的には市場の透明性と機関投資家参入を後押しする可能性が高い。日本も 2026 年に非居住者データの交換を開始するため、国内投資家にも間接的な影響が及ぶ。

(出典:HMRC ガイダンス,mynewsdesk,govuk