▽ 要約
サービス概要:米国Amex会員に旅のNFTスタンプを自動付与
技術基盤:Base上のERC‑721で低コスト・永続性を両立
体験設計:譲渡不可・鍵管理非対面で“ブロックチェーン感”排除
展開見通し:まずUS限定、iOSは9/18提供・Androidは数週間後
旅の思い出を“押印”のように残したい——Amex Passportはその欲求を、公的チェーン上の記念スタンプで叶える。米国のAmex個人会員がAmexアプリで機能を有効化すると、海外決済のたびに国・地域単位のスタンプが自動で集まり、カスタムコメントとともに保存・共有できる。Amex Passport 旅行スタンプはNFTであるが、譲渡や外部移送を排しUXに徹することで、投機性を避けた“記憶の資産化”を実装した。
サービスの概要と利用方法
海外決済を検知して国・地域スタンプを付与するため、会員はアプリで機能をオンにするだけでコレクションが自動拡充される。
Amexアプリの「Account>Settings>Try New Features」からAmex Passportを有効化すると稼働し、対象は米国発行の個人カード会員(オンライン登録済み)。iOSは2025年9月18日提供、Androidは数週間後に対応予定と案内された。費用の追加表記はなく、SNS共有や画像保存にも対応する。
自動付与の仕組みとデータ範囲
海外でのAmexカード取引をトリガーに、訪問した国・地域のスタンプが自動ミントされ履歴に反映される。
決済地域をキーにスタンプが生成され、初回有効化時には過去2年の海外利用が遡及付与される設計が示された。取引頻度に上限はなく、同一国でも別旅程で別スタンプとして積み上がる。
プライバシーと表示項目
個人情報はチェーンに載らないため、可視化は最小限にとどめられる。
スタンプの表示は国・地域名、取得日、任意のハイライト説明(ユーザーが追記可能)に限定され、旅程や金額などのセンシティブ情報はオンチェーン記録から排除されている。
技術基盤:BaseとNFT化の理由
大量発行に耐える低コストL2のBase上でERC‑721を採用したため、運用コストを抑えつつ永続性と相互運用性を確保できた。
BaseはCoinbaseが運営するイーサリアムL2でOP Stackを採用し、ガス代が低廉かつ処理が高速である。ERC‑721は各スタンプを1点ものとして識別し、将来のサービス連携における互換性を担保する。
Base選定の背景(OP Stack・スケール・信頼性)
OP Stackによりスケーラブルで手数料が安く、米大手の運営で信頼性も担保されるため、継続運用の前提が成り立つ。
ミントが決済のたびに発生しても手数料負担が軽く、Coinbaseの基盤は米企業連携の安心感がある。2025年6月にはAmexネットワークを使う「Coinbase One Card」も告知され、両社の協業土壌が整っている。
Fireblocks/WaaSと鍵管理
鍵管理はFireblocksのWallet‑as‑a‑Serviceで非対面化され、ユーザーは“ウォレット操作ゼロ”で利用できる。
Amexアプリの裏側で専用ウォレットが自動生成・保管され、ユーザーは秘密鍵を扱わない。これによりUXは従来の会員機能と同等のシンプルさが保たれる。
収集体験とデザイン
譲渡性を排した“思い出専用”のスタンプ設計のため、収集・眺望・共有の体験価値に集中できる。
各スタンプは国・地域の象徴的モチーフと年次があしらわれ、説明文に「旅のハイライト」を残せる。アプリ内で一覧・詳細・共有が完結し、押印ミスのない美しいグラフィックがデジタル台紙に並ぶ。
バックデート付与とカスタマイズ
開始時点で過去2年分が遡及付与されるため、初回から“自分史”が立ち上がる。
たとえば2年間で10か国に行っていれば、初回起動で10個のスタンプが並ぶ。以降は旅ごとに増え、各スタンプに「セーヌ川クルーズ」「築地で寿司」などの一言を添えて個別に記録できる。
譲渡不可・外部移送不可の設計
転売・譲渡を禁じた無価値ERC‑721のため、投機性を排し顧客体験の純度を保てる。
スタンプはマーケット取引や外部ウォレットへの移送に対応しない。これにより紛失・詐取などのユーザーリスクとサポート負荷を抑え、鑑賞と共有に特化した価値提案が成立する。
現在の対象(US限定)と今後の展開可能性
当面は米国発行の個人カードに限定されるため、各国の発行主体・規制対応を見据えた段階的展開が想定される。
iOSは9月18日から、Androidは数週間後に提供予定。グローバル展開は未発表だが、旅の記念スタンプは文化横断的な需要があり、市場検証後の地域展開余地は大きい。
競合比較:Uptrip/Starbucksほか
特典連動や取引機能を備える他社と比べ、Amexは“純記念・非譲渡”で差別化した。
ルフトハンザ「Uptrip」はPolygon上のNFTカード収集で特典交換や取引も可能。Starbucks「Odyssey」はPolygonのNFTスタンプによるロイヤリティ施策だったが2024年3月にβを終了。Amexは非売品設計で持続的なエンゲージメントに軸足を置く。
ルフトハンザ Uptrip(Polygon)
搭乗券スキャンでNFTカードを取得し、コレクション達成でラウンジ等の特典と交換できる。
Polygon採用で、β開始から数か月で利用者2万人、NFT20万枚超を発行。公式PRでも取引・保管・特典交換の仕組みが示された。
Starbucks Odyssey(β終了)
ゲームやクイズでスタンプを獲得し、会員間で売買可能だったが2024年3月末に終了。
Nifty Gatewayに移管され、スタンプの保有・取引は継続可能。Web3施策の難しさを示す一例だが、Amexは非金銭的価値へ振り切っている。
UI/UX設計の要点
“ブロックチェーンを感じさせない”抽象化で、一般会員にも違和感なく馴染む導線を整えた。
機能のオン/オフだけで自動収集が始まり、通知やハイライト表示で取得に気づける。閲覧・編集・共有はアプリ内で完結し、鍵管理や手数料処理は完全に裏側で吸収される。
リスクと留意点
オンチェーン公開は永続性の利点がある一方、設計変更後も記録が残るため表示仕様の明確化と同意管理が重要となる。
またUS限定の現行仕様では海外会員の期待管理が課題で、地域展開には発行主体の差異・規制・データ移転を慎重に調整する必要がある。
▽ FAQ
Q. Amex Passportは誰が使えますか?
A. 米国発行のAmex個人カード会員のみ対象。2025年9月開始で、オンライン連携済みが条件。
Q. どのチェーン・規格ですか?
A. CoinbaseのL2「Base」上のERC‑721で発行。OP Stack採用で低コスト・高速処理が可能です。
Q. 何が記録されますか?
A. 国・地域名、取得日、説明文のみ。旅程や金額などの個人情報はチェーンに記録されません。
Q. スタンプは譲渡できますか?
A. 譲渡・外部移送は不可。非売品の“思い出専用”トークンで、アプリ内での鑑賞・共有に特化します。
■ ニュース解説
Amexが2025年9月15日に発表し、9月18日からiOSで提供開始、スタンプはBase上のERC‑721で非譲渡のため投機性を排しつつ継続的なエンゲージメントを狙う。
Amexはプライバシー配慮とUX単純化のためカストディ型を採用し、Fireblocksで鍵管理を外部化した一方で、Base採用により大量ミントのコストと拡張性を確保した。影響としては、企業の“Web3を透過的に組み込む”モデルケースとなり、将来の観光局・ホテル等との連携データ基盤(許諾前提)になり得る。
投資家の視点:短期収益ではなくブランド強化・利用促進の施策であり、US限定検証→地域展開の順当なロードマップが想定される。周辺ではCoinbase One Card(Amexネットワーク・最大4%BTC還元)の連携もあり、両社の協業シナジーに注目。
ただしこれは投資助言ではありません。
(参考:American Express,Coinbase,Lufthansa Innovation Hub)