AIエージェントの進化:チャットを超えた自律実行が切り拓くWeb3の新時代

【要約】
・スポーツ分析や自動ベッティング、DeFi取引の自動化など、AI Agent が実際の課題解決に活用される事例が増加
・DeFAI は単なる対話型インターフェースから「アルファ(有益情報)発見層」へと進化し、情報取得の高度化を目指す動き
・Bittensor、Virtuals、ElizaOS など、AI Agent を取り巻く基盤技術が成熟し、実際のユースケースが拡大
・AIによる利便性向上と同時に、誤ったサイト案内や資金管理リスクなどのセキュリティ面も顕在化
・HashKey Group が ModAI のグローバルテストを開始し、Web3 AIコミュニティ向けサービスを拡充

AI Agentの台頭:対話型から実行型へ

近年、Web3とAI(人工知能)の領域で「AI Agent」という新たな概念が注目を集めています。かつてはChatGPTのような対話型AIがブームの中心でしたが、今やAI Agentは、ユーザーに代わって実際に行動・執行する機能を担う方向へとシフトしつつあります。たとえばスポーツ分析に基づいた自動ベッティングや、トレーディングの執行、そしてDeFi(分散型金融)の複雑な運用における最適化まで、多種多様なシーンでAI Agentの導入が検討されています。

この背景には、大手テック企業によるAI技術への巨額投資だけでなく、金融市場の不透明感が挙げられます。経済状況が不安定化する中で、リスクをより緻密に管理しつつ利益機会を逃さないためにも、AI Agentによる自動化・最適化が有力な手段として評価されているのです。

DeFAIの新潮流:「アルファ発見層」への転換

2023年から2024年前後にかけて多くのDeFAIプロジェクトが注目されましたが、多くはChatGPT的な対話インターフェースを前面に打ち出すものが中心でした。しかし実際には、単に自然言語で質問できるだけではユーザー体験が大幅に向上するわけではありません。多くのユーザーは高度な運用や戦略執行のサポートを求めているにもかかわらず、AI Agentが提示する戦略は抽象的で、結局はユーザー自身が既存ツール(DefillamaやAcross、Pendleなど)を使うのと大差ないケースが目立ちました。

そこで注目されているのが「アルファ発見層」です。これは、チェーン上のデータ解析やSNS(X、Telegram、Discordなど)でのトレンド解析などを通じて、未だ広く知られていない有益情報や、投資すべきポイントを明確に提示する試みです。高度なリサーチ機能やプロ級の分析を代替しようとするAI Agentは今後さらに進化し、ユーザーが見逃しがちな優位性を抽出する重要な存在になるでしょう。

マルチモーダル・マルチチャネルへの展開

ChatGPT的なテキスト対話のみでは、Web3領域で必要とされる多種多様なタスクに対応しきれません。そこで、X(旧Twitter)やDiscordといった実際のコミュニティが集まるプラットフォームでAI Agentを活用できるようにする動きが拡大しています。たとえば、ClankerBankrはX経由での自動返信・情報配信を可能にし、AgentTankはDiscord内で音声コマンドを使ったタスク実行を実装しつつあります。また、APIが提供されないウェブサイトにも擬似的にアクセスし、人間のように操作やデータ取得、さらには自動売買まで行う「Computer Use Agent」も開発が進められています。こうしたマルチモーダル、マルチチャネル対応が実現すれば、ユーザーはあらゆる環境からシームレスにAI Agentを利用し、効率的に情報収集や取引執行を行えるようになるでしょう。

Virtuals:AI Agentエコシステムの中心プラットフォーム

Virtualsは、AI Agentの代替不可能な資産(NFT)化や独自トークンによるインセンティブメカニズムをいち早く導入したことで知られ、6カ月前のローンチ以降、登録されているエージェント数は50から716に増加してきました。市況の悪化でエコシステム全体の評価額は下がったものの、実利用ベースでの成長が継続している点が注目されます。

とくに盛り上がりを見せているのは、GambleFAI分野やスポーツ分析です。事例としては、AI予測に基づくベッティングサービス「Billy Bets」や、NBAの試合分析を行う「HeyTracyAI」が挙げられます。また、Embodied AI(ロボットなど物理的インターフェースを持つAI)の構築を目指すSAMや、オンチェーンデータ分析から高精度の投資シグナルを提供する「Acolyt」や「aixbt」も人気を集めています。Virtualsは今後「Agent Commerce Protocol(ACP)」を開発し、AIエージェント同士が連携して高度な経済活動を行う仕組みを実現する予定です。

AIインフラとしてのBittensor

Bittensorは、トークン「TAO」のステーキングやサブネット設計を通じたAIのインセンティブ構造を提供し、Web3 AIの基盤的存在となりつつあります。最近では、BittensorのTAOを特定のサブネットへ投入する動きが活発化しており、ユーザーが高付加価値のAIアプリケーションを支える方向にシフトしています。2月に導入された「dTAO」モデルでは、ブロック報酬の配分が従来の検証者ウエイト中心から市場評価に基づく仕組みに変わり、高品質なAIノードやサブネットに報酬が集中しやすくなりました。すでにSN641、44などのサブネットで、AI Agentを使った実用的なユースケースが次々にローンチされています。

ElizaOS V2と新プラットフォーム「Autofun」

AI Agentの開発フレームワークとして知られるElizaOSは、GitHubで15,000を超えるスターを獲得し、広く使われています。まもなく公開されるV2では、エージェントの拡張性やデータ管理面の強化が図られる見込みです。そして新たに発表されたローンチパッド「Autofun」には、すでに15以上のプロジェクトが参加予定とのことです。

一方で、AI Agentがオンチェーンの資金を直接扱う上での安全性は依然として課題です。研究機関Sentientによると、ElizaOSをはじめとするAI Agentの資金管理には潜在的な脆弱性があり、強固なセキュリティ対策が必須と指摘されています。それでもエコシステムは着実に拡張しており、同時に進められている分散型GPUホスティング案「Comput3AI」などの新サービスもAutofunでのローンチが期待されます。

セキュリティの再認識:AIの誤誘導とフィッシング

AI Agentの利用が増えるにつれ、セキュリティ面での新たなリスクも見えてきました。SlowMistはテストで主流AIアシスタントを利用した際、ウォレット公式サイト「imToken」の正規URL(token.im)ではなく、フィッシングサイトを誤って案内されるケースを発見しています。
この事例は、ユーザーがAIを「検索エンジン代わり」に過度に信用することの危険性を示唆しています。ウォレットや取引所などを利用する際は、必ず公式チャネルや正しいURLを確認することが不可欠です。

HashKey GroupのWeb3 AIブランド「HashKey AI」とModAIの公開テスト

大手金融グループであるHashKey Groupは、自社のAI関連技術を強化する新ブランド「HashKey AI」を立ち上げ、その一環としてModAIというコミュニティ運営向けAIサービスを公開テストに移行しました。ModAIは多言語対応や複数プラットフォーム運営機能などを備え、コミュニティ管理者の作業負担を最大80%削減できるとされています。

さらに、HashKey AIはブロックチェーン固有のAIインフラを構築すべく、ゼロ知識証明やスマートコントラクトなどを活用した分散型のタスク配信やプライバシー保護技術にも取り組んでいます。独自の垂直統合型モデルエンジンと、AI Agentの協調運用を組み合わせることで、Web3の開発者やユーザーにとってより高度で効率的なサービスを実現するのが狙いです。

こうした取り組みは、Web3分野が抱える「運営コストの高さ」や「言語・文化圏の分断」といった課題の解決策として期待されています。ModAIは現在、中国語と英語に対応し、2025年第3四半期には対応言語をさらに拡大する計画が発表されました。

これらの動きを総合すると、AI Agentは今後さらに多様化し、高度化していくことが予想されます。単なるチャットの時代から実行主体となり、ユーザーが手動で行っていた複雑な作業を代替するだけでなく、新たな価値を生み出す可能性を秘めています。一方で、フィッシングサイトの誤案内に代表されるセキュリティ上のリスクにも十分な注意が必要です。加速する技術革新とともに、Web3 AI分野はさらに大きな飛躍を見せるでしょう。

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