NFTが二次流通で売れるたびに、売値の一部が作者に支払われる。この「ロイヤリティ」(マーケットプレイスでは「クリエイターフィー」「クリエイター収益」とも呼ばれます)は、NFTがアーティストにとって画期的だと言われた大きな理由でした。
旧版の記事が公開された2022年9月は、ちょうどこの仕組みが揺らぎ始めた時期です。旧版は「スマートコントラクトに書き込めば、あとは自動的に処理される」と説明していましたが、実際には多くの場合、支払うかどうかはマーケットプレイスの判断に委ねられていました。この記事では、その誤解を正したうえで、2022年から2026年までに何が起きたのかを時系列で追います。
ロイヤリティの仕組み:自動ではなく「取り決め」だった
イーサリアムには、NFTのロイヤリティ情報を記録するための規格「ERC-2981」があります。2020年9月に提案されたこの規格では、NFTのコントラクトに「受取先のアドレス」と「売値に応じた支払額」を返す関数を用意します。マーケットプレイスはその情報を読み取って、売買のたびに作者へ支払います。
ここで大事なのは、ERC-2981が支払いを強制しないことです。規格の本文自体が、マーケットプレイスがこの仕組みを「自主的に」実装することを前提にしています。NFTの売買はOpenSeaのような取引所を通さず、個人間の送付や別の取引プロトコルでも成立します。そのため、コントラクトに受取先を書いても、支払わない経路が残ります。
2021年から2022年前半までロイヤリティが当然のように支払われていたのは、市場の大部分を占めていたOpenSeaが支払いを続けていたからでした。この前提が、2022年後半に崩れます。
2022年後半:任意化の波
最初に動いたのは新興の取引所でした。
- 2022年8月:NFTの自動売買プロトコルSudoswapが作者へのロイヤリティを支払わない設計で注目を集めました。8月26日にはX2Y2が、買い手が支払額を選べる任意制に移行しています(1点ものの作品は翌日に対象外へ戻しました)。
- 10月14日:ソラナ最大手のMagic Edenが任意制に切り替え、自社の2%の手数料もなくしました。
- 10月19日:取引所手数料0%を掲げたBlurが公開されました。ロイヤリティは強制せず、支払った買い手に報酬を多く配る方式でした。
- 10月27日:LooksRareがロイヤリティを任意にし、代わりに自社手数料2%の4分の1(売値の約0.5%)を作者に回す方式を取りました。
CoinDeskによると、X2Y2の任意化直後、ある人気コレクションの買い手14人のうちロイヤリティを払ったのは2人でした。支払いを選べるようにすると、多くの人は払わない。この数字が、その後の議論の出発点になりました。
OpenSeaの方針転換とBlurとの競争
OpenSeaは2022年11月、新しいコレクションに対してオンチェーンのツール(Operator Filter)を使う場合に限り、クリエイターフィーを強制する方針を打ち出しました。ロイヤリティを払わない取引所での売買を、コントラクト側で拒否できるようにする仕組みです。
しかし、手数料ゼロと報酬配布で利用者を集めたBlurとの競争は激しくなりました。2023年2月、Blurは最低0.5%のロイヤリティを払う方式を取り、OpenSeaも2月17日に一時的な手数料0%と最低0.5%のクリエイター収益への移行を発表しています。
そして2023年8月17日、OpenSeaはOperator Filterを8月31日で終了し、新しいコレクションのクリエイターフィーを任意にすると発表しました。フィルターを使っていた既存のコレクションなども、2024年2月29日までで強制を終えるとされました。人気コレクション「Bored Ape Yacht Club」を持つYuga Labsはこれに反発し、新しいコレクションなどでOpenSeaの取引基盤への対応を段階的にやめると表明しています。
その後どうなったか:ERC-721Cと「強制できるロイヤリティ」
任意化の一方で、ロイヤリティを技術的に守ろうとする動きも進みました。ブロックチェーンゲーム企業のLimit Breakは2023年5月、NFTの移転そのものに条件をつけられる規格「ERC-721C」を公表しました。コントラクトが認めた取引経路でしか売買できないようにし、その経路でロイヤリティを確実に支払わせる考え方です。
OpenSeaは2024年4月2日にERC-721Cへの対応を発表し、この規格を使うコレクションではクリエイター収益を強制できるようになりました。2024年2月27日には、Magic EdenがYuga Labsと組んだロイヤリティを守るイーサリアム向けマーケットプレイスを開いています。ソラナでは、Metaplexの「プログラマブルNFT」を使う方式がとられました。
2026年時点のOpenSeaのヘルプセンターでは、2024年4月2日以降にOpenSea Studioで作られたコントラクトと、ERC-721C・ERC-1155Cに対応するコントラクトはクリエイター収益が強制され、それ以外は任意とされています。設定できる上限は10%で、任意のコレクションに最低額はありません。つまり今のロイヤリティは「NFTだから必ず入る」ものではなく、「どの規格で発行し、どこで売買されるか」で決まるものになっています。
誰が払い、誰が受け取るのか
ロイヤリティを実際に負担するのは、売買の当事者です。多くのマーケットプレイスでは売り手の受取額から差し引かれますが、価格はその分を織り込んで決まるため、買い手にも影響します。支払いを取り次ぐのはマーケットプレイスで、受け取るのはコントラクトに設定された受取アドレスです。
受取アドレスが個人の作者なら話は単純ですが、チームで運営するプロジェクトでは、受け取ったロイヤリティを誰にどう分けるかはブロックチェーンの外での取り決めになります。旧版は、分配をコミュニティの投票で決めるべきではないかと問いかけていました。実際にDAO(分散型自律組織)の金庫にロイヤリティを入れるプロジェクトもありますが、どの方式を選ぶかはプロジェクトごとに異なり、NFTを買っただけで分配を受ける権利が生じるわけではありません。
なお、ロイヤリティ率が高いほど作者に有利とは限りません。売り手の手取りが減るため、率の高いコレクションは売買が細りやすいという見方もあり、多くのプロジェクトは数%程度に設定しています。率を決めるときは、取引の活発さとのバランスも考える必要があります。
作者と購入者がいま確認すべき点
NFTを発行する側、買う側がそれぞれ確認しておきたい点をまとめます。
- 発行する側:どの規格で発行するか(ERC-721Cなど強制できる方式か)、どのマーケットプレイスで強制が効くか、設定できる率の上限。
- 買う側:そのコレクションのロイヤリティが強制か任意か、売るときに差し引かれる率、取引所の手数料と合わせた実際の受取額。
- 両方:強制型のコレクションは売買できる場所が限られることがある点。
日本の税金では、2023年1月に国税庁が公表したNFTの税務FAQが、作者が自作のNFTを最初に販売したときの所得を雑所得(または事業所得)と整理しています。一方、二次流通で入るロイヤリティについて直接答えた設問は、このFAQには見当たりませんでした。受け取った場合の区分は、税務署や税理士に確認してください。NFTの課税区分の全体像はNFTの税金の解説に、NFTそのものの仕組みはNFT入門にまとめています。
よくある質問
Q. NFTのロイヤリティはスマートコントラクトで自動的に支払われるのですか?
A. 多くの場合は自動ではありません。ERC-2981は受取先と金額を記録する規格で、支払うかどうかはマーケットプレイスの判断です。ERC-721Cのように取引経路を制限する規格を使った場合に、強制に近い形になります。
Q. OpenSeaではいまロイヤリティは必ず支払われますか?
A. コレクションによります。2026年時点のヘルプセンターでは、2024年4月2日以降のOpenSea Studioのコントラクトや、ERC-721C・ERC-1155C対応のコントラクトは強制、それ以外は任意とされています。上限は10%です。
Q. 作者が受け取ったロイヤリティは日本でどう課税されますか?
A. 国税庁のNFTのFAQは、作者による最初の販売を雑所得(または事業所得)としていますが、二次流通のロイヤリティを直接扱った設問は確認できませんでした。個別の状況に応じて税務署や税理士に確認することをおすすめします。
この記事の出典
- Ethereum Improvement Proposals: ERC-2981 NFT Royalty Standard
- CoinDesk: An NFT Marketplace Is Letting Buyers Avoid Royalty Payments (2022年8月31日)
- CoinDesk: Magic Eden Moves to Optional Royalty Model
- Decrypt: NFT Marketplace LooksRare Goes Zero Royalties
- The Block: OpenSea makes changes to fees following tension with Blur
- The Block: Yuga Labs slams OpenSea's shift to optional royalties
- OpenSea: Creator earnings ERC721-C compatibility on OpenSea
- OpenSea Help Center: How do I set creator earnings on OpenSea?
- 国税庁:NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




