2025年3月12日までの暗号資産市場では、価格下落に伴う担保付き借入のリスクが注目された。一方で、AvalancheのETFに向けた準備や、Bybitの盗難資金を巡る報道も続いていた。価格の実績と予測、清算を防ぐ売却と強制清算、州登録とSECへの提出を区別して、当時の動きを読み直す。
BTCの7万7,000ドル割れと、36%下落という予測を分ける
2025年3月11日更新のThe Blockは、ビットコインが一時7万7,000ドルを下回り、イーサリアムも1,800ドル近辺まで下落したと報じた。米株市場の下落や景気後退への懸念が重なるなか、暗号資産でも売りが強まった局面だった。ここで示す価格は当時の報道に基づくもので、現在値ではない。
同時期に注目されたのが、BitMEX共同創設者アーサー・ヘイズ氏の7万ドルという見通しだ。3月11日のForkLogが紹介した同氏の投稿では、11万ドルを起点に7万ドルまで下落する場合の調整幅を、約36%としている。これは底値の候補についての意見であって、7万7,000ドル時点ですでに36%下落したという計算ではない。
実際に11万ドルから7万7,000ドルへの変化を計算すると、下落率は30%となる。同じ起点から7万ドルなら約36.4%だ。起点や価格データの違いもあるが、予測の数字を直近の実績として扱うと、相場の説明そのものが変わってしまう。
ヘイズ氏の見方には、金融市場の悪化と、その後の中央銀行による緩和を意識した筋書きがある。しかし市場がその順序で動く保証はない。予測者の経歴とは別に、何を条件とした見通しかを読む必要がある。
大口投資家の売却は、Aaveの事例として報告された
オンチェーン分析サービスLookonchainは3月11日、大口保有者が清算を避けるため2万5,800ETHを売却したと報告した。売却額は約4,780万ドル、損失は3,200万ドル超という同社の推計である。報告には、売却後もAaveにETHを保有する状態が記されており、Makerの口座についての説明ではない。
この事例で分けたいのは、自ら売却して借入のリスクを減らす行動と、担保条件に抵触して処理される強制清算である。売却があったという情報だけで、すでに強制清算が起きたと書くことはできない。清算を避けるための売りも市場に注文を出す行動ではあるが、発生した仕組みは異なる。
また、分析サービスの損失推計は、把握できた取得価格や移動履歴に依存する。本人のすべての取引、別口座、ヘッジまで確認した会計上の損益とは限らない。数字を利用するときは、誰の推計なのかを付けて読むのが適切だ。
大口口座は目を引くが、一つの口座の対応だけでETH全体の需給は説明できない。同時刻の取引量や他の市場の動きもあり、個別の売却額をそのまま市場全体の損失額に置き換えないことが重要になる。
担保追加と借入返済では、清算余地の変わり方が違う
DeFiの担保付き借入では、資産の市場価格だけでなく、担保評価額に対する債務の大きさが問題になる。ETHを現物で保有しているだけなら、値下がりしても借入に伴う清算はない。ETHを担保に借りている口座では、同じ値下がりが担保条件への抵触につながる可能性がある。
計算例として、担保が200、債務が100なら単純な担保比率は200%になる。担保だけが20%値下がりすれば160%だ。そこに担保を20追加すれば180%となる一方、債務を20返せば160÷80で200%になる。これは仕組みを説明する仮の例であり、実際のプロトコルの清算条件を示す数値ではない。
担保を追加すると清算価格を下げられる場合があるが、同じ資産への資金投入も増える。借入返済には返済用の資産が必要になるため、その調達で別の資産を売ることもある。どちらも口座の条件を変える行動であり、単純に強気の買い増しと呼ぶと目的を見誤る。
清算リスクの報道を読むときは、担保総額、借入残高、清算が始まる条件、観測時刻をそろえたい。「清算の恐れがある金額」と「すでに清算された金額」も別の集計だ。対策後の口座に対して、対策前の清算価格を使い続けるのは適切ではない。
MakerのOSMは、借り手に1時間を保証する仕組みではない
MakerのOracle Security Module(OSM)は、外部から得た価格を遅らせてシステムに渡す仕組みである。公開コードでは更新間隔の初期値として3,600秒が設定されている。公式の技術説明が挙げる目的は、価格情報への攻撃を検知し、対応する時間を確保することだ。
そのため、取引所での急落が直ちに同じ価格で担保評価へ反映されるとは限らない。ただし、これを「急落を見てから必ず1時間は清算を避けられる」と理解するのは誤りになる。更新には外部からの呼び出しが必要で、更新時刻の扱いや、現在採用されている価格と次回価格の違いがある。
公式資料にも、呼び出しのタイミング次第では、連続する更新の間に常に丸1時間が確保されるわけではないという注意がある。相場の時計とプロトコルの価格更新の時計は一致しない。利用者がニュースに気付いた時点で、すでに次の更新が近づいている場合も考えられる。
追加担保や返済を行う場合も、操作を始めることと、取引がチェーン上で実行されることは別である。OSMの存在だけを理由に待つのではなく、対象の担保種別と更新状況を確認する必要がある。なお、この構造の説明は公開技術資料によるもので、特定口座の当日の状態を再現したものではない。
Avalanche ETFは、州登録とSEC提出の日付が異なる
VanEckのAvalanche関連商品について、3月11日のCoinDeskは、前日の3月10日にデラウェア州で「VanEck Avalanche ETF」が登録されたと報じた。3月12日時点のニュースとして扱うべきなのは、この州での登録という準備段階である。
後日提出された記録を確認すると、SECのEDGARにある同商品のS-1の提出日は3月14日となっている。これは本記事が振り返る3月12日より後の出来事だ。後から確認できる書類を使って、3月12日の時点ですでにSECへ提出していたかのように書くと、時系列が逆転する。
州での登録、SECへの登録届出書の提出、実際の市場での取引開始は同じ出来事ではない。書類の提出だけで、投資家が商品を買える状態になったともいえない。商品名にETFと入っていても、その名称だけから上場済みだと判断しないことが大切だ。
AVAXへの影響も、将来の商品化への期待と、実際に資金が入ることを分けて考える必要がある。運用会社が準備を進めていても、ネットワークの利用者数やアプリの収益が同時に増えたことにはならない。金融商品としての需要と、チェーンを利用する需要は、それぞれのデータで確認する論点になる。
OKXを巡る報道は、当局の決定と会社の説明を分ける
The Blockは米国時間3月11日、Bloombergの報道を引用し、Bybitから盗まれた資産の移動とOKXのWeb3サービスについて、欧州の規制当局が議論していると伝えた。同じ記事は、OKXが調査対象との主張を否定したことも紹介している。報道と会社側の反論が並ぶ段階であり、処分が確定したというニュースではない。
OKXは、中央集権型取引所に流入した関連資金を凍結し、法執行機関やBybit側に協力したと説明している。この説明も会社側の主張として扱う必要がある。自社で管理する取引所口座と、利用者が管理するウォレットやDEXの経路では、資金への操作権限が異なるからだ。
あるサービスを資金が通過したこと、運営者がそれを認識していたこと、法的責任が認定されたことは別々の問題になる。逆に、会社が協力を表明しただけで規制上の論点が解消したともいえない。当局の公表資料や、その後の正式な手続きによって確認する事項が残っていた。
当時の市場を過去の暴落になぞらえるより、価格変動、担保処理、商品化の準備、規制上の争点を切り分ける方が変化を追いやすい。大きな金額や強い見出しだけで判断せず、それが実績、リスクの推計、将来予測のどれなのかを確認することが、3月12日のニュースを理解する要点である。
よくある質問
Q. 7万7,000ドルは11万ドルから36%下落した水準ですか?
A. その2つの値で計算すると30%下落です。約36%は7万ドルまで下がる場合に対応します。
Q. OSMがあれば、急落しても1時間は安全ですか?
A. 一律の猶予を保証するものではありません。採用価格や更新時刻、担保条件、取引の実行状況によって変わります。
Q. 3月12日時点でVanEckはAVAXのS-1を提出していましたか?
A. ここで確認したS-1のSEC提出記録は3月14日です。3月12日までに報じられたデラウェア州での登録とは日付も手続きも異なります。
この記事の出典
- The Block:BTCの7万7,000ドル割れとETH下落(3月11日更新)
- ForkLog:ヘイズ氏の7万ドル予測(3月11日)
- Lookonchain:2万5,800ETH売却の分析
- OSM公式コード
- Sky公式技術資料:OSMの仕組みと注意点
- CoinDesk:VanEckのデラウェア州登録
- SEC:VanEck Avalanche ETFのS-1提出記録(後日の3月14日)
- The Block:OKXを巡る報道と同社の反論
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




