NFTで選挙資金を集めた米下院候補|ユタ州January Walker氏の結果

2022年8月、米国ユタ州で連邦下院議員に立候補していたJanuary Walker(ジャニュアリー・ウォーカー)氏が、ブロックチェーンのCardano(カルダノ)上で発行したNFTを売り、11月の中間選挙に向けた資金にあてると発表しました。選挙運動の資金集めにNFTを使う試みは珍しく、暗号資産メディアで取り上げられました。

旧版の記事は候補者の人柄やNFTの価格を紹介していましたが、所属政党や選挙区、選挙の結果には触れていませんでした。また「2020年にユタ州で行われるブロックチェーン投票選挙に参加した」という記述は、実際にはユタ郡が一部の有権者向けに試した仕組みを指すとみられます。この記事では事実関係を確かめ直し、米国で暗号資産やNFTが政治資金とどう関わるのかを整理します。

何が起きたか:4種類のNFTで選挙資金を募る

暗号資産メディアThe Cryptonomistの2022年8月20日の記事によると、Walker氏は小政党ユナイテッド・ユタ党(United Utah Party)の候補として、ユタ州第4選挙区から連邦下院に挑んでいました。

選挙運動が用意したNFTは、選挙運動でおなじみのグッズをデジタルにした次の4種類です。

  • 庭先に立てる看板(ヤードサイン)
  • 胸につける缶バッジ(ピンボタン)
  • 記念コイン
  • 旗

価格は89ADA(当時約40ドル)から5,000ADA(約2,300ドル)までで、販売は2022年8月13日に始まりました。ADAはCardanoの基軸となる暗号資産です。販売サイトではブロックチェーン、暗号資産、Web3への支持をはっきり打ち出していました。どれだけの金額が集まったのかは、当時も公表されておらず、今回の調べでも確認できませんでした。

候補者の主張:企業献金に頼らない選挙を掲げる

Walker氏は経営学を学び、サイバーセキュリティの分野でソフトウェア開発チームを率いてきた経歴を掲げていました。選挙運動では、インフレ対策やサプライチェーンの改善、個人のプライバシーとサイバーセキュリティの強化にブロックチェーンを生かすと訴えています。

同氏の陣営は、NFTで資金を集めることで選挙資金の流れを透明にし、ロビイストや企業のお金を政治から遠ざけられると説明していました。The Cryptonomistは、同氏が「ブロックチェーンのコミュニティはワシントンで声を上げる必要がある」と語り、政策を決める人たちにブロックチェーンを恐れる理由はないと伝えたいと述べたことも紹介しています。

旧版は、選挙運動の資金はすべて市民の寄付でまかなわれ「政治的な影響力はない」と書いていました。これは陣営自身の主張で、第三者が検証した事実ではない点に注意が必要です。

なぜ選挙グッズをNFTにしたのか

米国の選挙運動では、看板やバッジ、旗といったグッズの販売が、支持者を広げると同時に少額の資金を集める手段として定着しています。Walker氏の陣営はこれをそのままデジタルに置き換え、支持の気持ちを示す「持ち物」としてNFTを売りました。デジタルのグッズは在庫や発送の手間がかからず、誰がいつ買ったかの記録もブロックチェーンに残ります。

発行先にCardanoを選んだ理由について、陣営が詳しく説明した資料は確認できませんでした。Cardanoはイーサリアムに比べて取引手数料が安く、当時は環境負荷の小さいプルーフ・オブ・ステーク方式を早くから採用していたことを売りにしていました。環境やコストを重んじる同氏の主張と相性がよかったとは考えられますが、これは推測です。

一方で、NFTを買うには暗号資産のウォレットを用意し、ADAを手に入れる必要があります。支持を広げるための手段としては、暗号資産に慣れた一部の有権者にしか届きにくいという限界もありました。

「2020年のブロックチェーン投票」とは何だったのか

Walker氏がメリットを語った2020年のブロックチェーン投票は、ユタ州全体の選挙ではなく、ユタ郡が進めていたスマートフォン投票の試みを指すとみられます。

行政専門メディアのGovernment Technologyによると、ユタ郡は2019年から、米企業Voatzのアプリを使った投票を、海外に駐留する軍人とその家族、海外に住む有権者に向けて導入しました。これまで電子メールで送っていた不在者投票を、より安全に送る手段という位置づけです。その後、障害のある有権者にも対象を広げ、2020年10月には同郡の住民がこのアプリで大統領選挙の票を投じました。ブロックチェーンを使うアプリで、個人のスマートフォンから大統領選挙の本選挙に票を投じたのは初めてだと報じられています。

つまり、有権者の大半が紙の投票を使う中で、限られた人だけが利用できる仕組みでした。旧版の「ブロックチェーン投票選挙」という書き方は、州の選挙全体がブロックチェーンで行われたかのような誤解を招くものでした。

その後どうなったか:2022年11月の選挙結果

2022年11月8日の本選挙で、ユタ州第4選挙区は現職で共和党のバージェス・オーエンズ氏が再選を決めました。結果は次のとおりです。

候補者 政党 得票数 得票率
バージェス・オーエンズ 共和党 155,110 61.0%
ダーリーン・マクドナルド 民主党 82,181 32.4%
January Walker ユナイテッド・ユタ党 16,740 6.6%

Walker氏は3位で、議席には届きませんでした。NFTによる資金集めがどれだけの効果を上げたのかを示す公式の数字は見当たらず、NFTの販売サイトがその後どうなったのか、購入者に何らかの特典があったのかも確認できませんでした。

その後の米国政治では、暗号資産業界の政治資金がより大きな存在感を持つようになりました。ドナルド・トランプ氏の暗号資産をめぐる動きについては6億ドル超の政治資金と「暗号資産ディナー」の記事で取り上げています。

読者が知っておくべきこと:米国の政治献金と暗号資産

米国では、連邦選挙委員会(FEC)が2014年5月8日の勧告的意見(AO 2014-02)で、政治団体がビットコインによる献金を受け取れるとの判断を示しています。ビットコインは株式や債券などと同じ「現物による寄付」として扱い、受け取った時点の市場価格で評価して報告すること、寄付者が献金の資格を持つかを確かめることなどが条件です。

NFTの販売で集めた資金を、選挙委員会が献金として扱うのか、グッズの売上として扱うのかについて、NFTに特化したFECの判断は今回の調べでは確認できませんでした。いずれにしても、候補者側には寄付者の身元確認や上限額の管理といった、従来の献金と同じ責任がかかると考えられます。

政治家や選挙に関連するNFTやトークンを買う側も、次の点に注意が必要です。

  • 候補者の公式な販売か、名前を使った便乗の出品かを公式サイトで確かめる
  • 購入が寄付として扱われるのか、単なる商品の購入なのかを確認する
  • 選挙が終わると、NFTの価値や特典の中身が変わる可能性がある

日本の読者にとっての意味

日本で政治家や候補者がNFTを売って資金を集める場合は、政治資金規正法や公職選挙法との関係を一つずつ確かめる必要があります。日本では政治家個人への寄付に厳しい制限があり、外国人や外国法人からの寄付は禁じられています。NFTはインターネットで世界中から買えるため、購入者の身元をどう確かめるかが大きな課題になるはずです。こうした形の資金集めが日本で行われた例は、今回の調べでは確認できませんでした。

NFTそのものの仕組みはNFTの基礎解説で、寄付と組み合わせたNFTの例はチャリティーNFTの記事で紹介しています。

よくある質問

Q. January Walker氏はどの政党の候補でしたか?

A. ユタ州の小政党ユナイテッド・ユタ党(United Utah Party)の候補として、ユタ州第4選挙区から連邦下院に立候補しました。

Q. NFTでいくら集まったのですか?

A. 販売は2022年8月13日に始まりましたが、集まった金額は当時も公表されておらず、今回の調べでも確認できませんでした。

Q. 選挙の結果はどうなりましたか?

A. 2022年11月8日の本選挙で、Walker氏は16,740票、得票率6.6%の3位でした。当選したのは現職で共和党のバージェス・オーエンズ氏です。

Q. 米国では暗号資産で政治献金できるのですか?

A. 連邦選挙委員会は2014年の勧告的意見で、政治団体がビットコインによる献金を受け取れると判断しています。現物による寄付として市場価格で評価し、報告することなどが条件です。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。